中大規模木造建築
1.木造建築物の中大規模化
2010年の公共建築物等木材利用促進法(2021年改正)をはじめ、建築基準法改正や各法整備や国・自治体により様々な木材利用の促進策が講じられています。また、木造建築物の技術開発が進み、構造性能や防耐火性能が確立されつつあります。このような環境のなか、中大規模建築物や非住宅建築物の木造化が推進され、実例が加速度的に増加しています。
木住協は、木造軸組工法の研究を重ね、構造の考え方や架構法の提案を行い、中大規模建築物の試設計などを行ってきました。中大規模建築物は、高強度耐力壁が必要となりますが、木住協では様々な仕様の耐力壁を開発していますので、「3.耐力壁」の項目をご覧ください。
また、規模・⽤途・地域により耐⽕または準耐⽕構造を要求されますが、⽊住協による⼤⾂認定や告⽰仕様で対応可能となっています。耐⽕‧準耐⽕構造に関する内容は「耐⽕‧準耐⽕構造」の項⽬をご覧ください。
2.中⼤規模建築物設計資料
1)こうすればできる「純⽊造3階建て事務所建築」中⼤規模⽊造の検討
中大規模木造建築を計画するにあたっての建築物の木材利用に関する情報提供の一環として、住宅生産にて培われた既存の技術を応用しながら実現可能な汎用性のある建物を想定し、具体的なモデル建物を「3階建て・延べ面積約1,000㎡・準耐火構造の事務所ビル」として設定し、意匠・構造・設備の計画、設計時の留意事項、施工時の協業体制や対応の考え方等についてより具体的に整理し、鉄骨造モデルとの建設コスト比較した資料を含め、『こうすればできる「純木造3階建て事務所建築」中大規模木造の検討』として書籍にしました。
これから中大規模木造や非住宅建築への取組みを始めようとしている方々にとっての参考書として活用いただけます。木造軸組工法による非住宅系中大規模木造建築物の推進を図る一助となることを期待しています。
こうすればできる「純⽊造3階建て事務所建築」中⼤規模⽊造の検討
2)複合型保育所の計画
最近特に“やさしさと温かさ”があり、“木”に触れることによる安心感がある木造による建築数が増加している幼稚園・保育所に注目し、保育所に地域社会との交流支援や子育て支援機能等を付加したこれからの保育所として「複合型保育所」を提案し、「中大規模建築物設計資料-複合型保育所の計画-」として書籍にしました。
内容はⅠ.に幼稚園・保育所・認定こども園の概要を整理、Ⅱ.に設計資料として意匠及び構造計画をまとめ、Ⅲ.にCASBEE-建築(新築)による環境性能評価を行っています。
中大規模木造建築物設計資料-複合型保育所の
計画-
3)中⼤規模⽊造建築ポータルサイト
これまで木造とすることが少なかった低層の非住宅や中高層の住宅・非住宅用途の中大規模建築について、本格的な利用期を迎えた森林資源の活用や、地球環境への配慮、木のもたらす健康効果、優れた施工性等のメリットを活かした木造化のニーズが高まっています。一方、中大規模木造建築に関する各種の設計情報が散在しており、新たに取組もうとする設計者にとってハードルになっているほか、実績経験の豊かな設計者に対し有用かつ最新の情報提供が求められています。
このようなことから、中大規模木造建築に取組みやすい環境整備を目的として、「中大規模木造建築ポータルサイト」が開設され、設計技術情報等が提供されています。
詳細は下記をご覧ください。
中⼤規模⽊造建築ポータルサイト
3.耐力壁
1)高強度耐力壁
中大規模木造建築物に必須となる高階高で高強度の耐力壁の開発を進め、様々なバリエーションの高耐力耐力壁(木住協仕様)の構造評定を取得しました。また、真壁5倍耐力壁(木住協仕様)の国土交通大臣認定を取得しました。
構造評定を取得した耐力壁は、施工性やコストを考慮して、12㎜や24㎜厚の構造用合板を片面もしくは両面に設ける仕様とし、構造用合板を柱面に取付ける大壁仕様と柱面内に取付ける真壁仕様等とし、相当倍率7.5倍(短期許容せん断耐力14.7kN/m)から19.2倍(短期許容せん断耐力37.6kN/m)となっています。
また、大臣認定を取得した耐力壁は、壁量計算で設計できる建物にも使用できる耐力壁で、軸組材に受材を介して真壁仕様で12㎜厚の構造用合板を片面張りした仕様で、壁倍率4.8倍の認定となっています。
高耐力耐力壁(木住協仕様)
記号 | 構成概要 | 高さの 適用範囲 |
短期許容 せん断耐力 |
相当倍率 | |
① | A-12-s | 大壁耐力壁(片面張り) 面材:構造用合板12mm 床勝ち受材仕様
|
2.4m以上
3.6m未満 |
17.5kN/m | 9.1 |
② | A-24-s | 大壁耐力壁(片面張り) 面材:構造用合板24mm 床勝ち受材仕様 |
3.3m以上 3.9m以下 |
31.8kN/m | 16.6 |
③ | B-12-s | 真壁耐力壁(片面張り) 面材:構造用合板12mm 床勝ち受材仕様 |
2.4m以上 3.6m未満 |
14.7kN/m | 7.7 |
④ | B-24-s | 真壁耐力壁(片面張り) 面材:構造用合板24mm 床勝ち受材仕様 |
2.4m以上 3.3m未満 |
16.2kN/m | 8.4 |
⑤ | B-12-w | 真壁耐力壁(両面張り) 面材:構造用合板12mm 床勝ち受材仕様 |
2.4m以上 3.6m未満 |
29.8kN/m | 15.5 |
⑥ | B-24-w | 真壁耐力壁(両面張り) 面材:構造用合板24mm 床勝ち受材仕様 |
2.4m以上 3.6m未満 |
37.6kN/m | 19.6 |
⑦ | C-12-w | 軸組挿入MPW仕様 面材:構造用合板12mmダブル仕様 床勝ち受材仕様 |
2.7m以上 3.9m以下 |
24.0kN/m | 12.5 |
⑧ | D-12-w | MPW+構造用合板大壁(片面張り) 面材:C-12-w 仕様+構造用合板12mm 床勝ち受材仕様 |
3.3m以上 3.9m以下 |
28.4kN/m | 14.8 |
真壁5倍耐力壁(木住協仕様)
概要 | 柱高さ | 壁倍率 |
真壁耐力壁(片面ばり) 面材:構造用合板12mm 床勝ち受材仕様 |
1.82m以上
3.15m以下
|
4.8 |
2)その他各種⾯材耐⼒壁
2007年6月に改正施行された面材耐力壁の告示(昭和56年建設省告示第1100号)に、木住協が提案・試験協力した床勝ち仕様のせっこうボード耐力壁が追加されました。これによって床下地合板等を先行施工して壁面材が土台等下部の横架材まで達していない壁倍率も認められるようになりました。
これと並行して、さらに使い勝手の良い面材耐力壁の仕様を検討し、指定性能評価機関での試験を経て、木住協として2007年4月と7月に2仕様、2008年6月に2仕様の大臣認定を取得しました。
その他各種面材耐力壁
部位 | 認定の概要 | 壁倍率 | |
① | 室内壁 (外周壁、屋内面も含む) |
大壁耐力壁(片面張り)
面材:せっこうボード(GB-R)12.5mm 床勝ち 受材仕様
|
1.0 |
② |
大壁耐力壁(片面張り)
面材:構造用合板9.0mmまたは9.5mm 上部・下部に開口可
(上部開口200mm以下、下部開口100mm以下) |
2.1 | |
③ | 外周壁(内外)・間仕切壁 |
大壁耐力壁(片面張り)
面材:構造用合板9.0mmまたは9.5mm 床勝ち 受材仕様(根太床可)
|
3.8 |
④ |
大壁耐力壁(片面張り)
面材:構造用合板9.0mmまたは9.5mm 壁勝ち 仕様
|
4.0 |
3)運⽤⼿順と各種書類
運用ルール
木住協が取得した大臣認定・評定は木住協の会員のみならず、非会員会社にもご利用いただけ、大臣認定書(写し)、評定書(写し)及び関連書類を購入していただけます。ただし、購入いただける方は、所定の講習会を受講して木住協に登録された方で、確認申請に記載する設計者に限定しています。
講習会修了登録済の設計者は、物件ごとに所定の申請書に必要事項を記載し、振込書を添付してFAXにて申し込んでください。
認定・評定の内容に基づいて構造計画、設計を行い、建築確認申請書に大臣認定書(写し)・評定書(写し)及び、必要に応じて仕様図・標準納まり図を添付してください。設計者は設計・施工用チェックリストの設計チェック項目に基づき、耐力壁の設計仕様をチェックし、施工者(講習会修了登録者が望ましい)は施工管理業務の一環として、設計・施工チェックリストの施工項目に基づいて現場施工状況をチェックして保管しておいてください。
評定書関係書類の販売
〇高耐力耐力壁(木住協仕様)
評定書(写し) 正副各1部
仕様書・標準納まり図 1部
設計・施工用チェックリスト 1部
会 員 1,100円(税・送料込)
非会員 2,200円(税・送料込)
〇真壁5倍耐力壁(木住協仕様)
大臣認定書(写し) 正副各1部
仕様書・標準納まり図 1部
設計・施工用チェックリスト 1部
会 員 1,100円(税・送料込)
非会員 2,200円(税・送料込)
〇面材耐力壁(木住協仕様)
大臣認定書(写し) 正副各1部
面材耐力壁貼付シール
(該当する認定番号のシール100枚入り) 1セット
会 員 1,100円(税込)
非会員 2,200円(税込)
■発行申請書
各耐力壁共通書式のため、申請書上部の記載欄に使用する耐力壁を選択してください。
会員用
【ダウンロードにはログインが必要です】
非会員用
■マニュアル
「木造軸組工法による高耐力耐力壁(木住協仕様)活用マニュアル」は講習会時に配布するもので、販売はしておりません。
「木造軸組工法による高耐力耐力壁(木住協仕様)活用マニュアル」正誤表
4)⾼耐⼒耐⼒壁(⽊住協仕様)Q&A
講習会受講者の皆様から寄せられた高耐力耐力壁(木住協仕様)に関する質疑に対して、Q&Aをまとめました。
4.講習会
1)⽊造軸組⼯法による⾼耐⼒耐⼒壁(⽊住協仕様)マニュアル講習(WEB)
木住協は中大規模木造建築物に必須となる様々なバリエーションの高耐力耐力壁(木住協仕様)8仕様の構造評定(相当倍率7.5倍~19.2倍)と真壁5倍耐力壁(木住協仕様)の大臣認定を取得し、この評定・認定内容をマニュアルにまとめました。
木住協仕様耐力壁を使用して構造計算を行い、建築確認申請を提出するにあたり、中大規模木造建築物の考え方、木住協仕様の詳細や設計上の注意事項等を解説するe-ラーニングによるWEB講習を開催しています。この講習会は木住協の会員でなくても受講することができます。講習会の案内、申込みは以下をご参照ください。
なお、評定書・認定書の写しの発行を申請できるのは本講習会を受講して木住協に登録された方に限ります。構造設計者のみならず、意匠設計者や施工者の方には、是非この講習を受講されることをお勧めします。
2024年度 木造軸組⼯法による⾼耐⼒耐⼒壁(⽊住協仕様)マニュアル講習(WEB)
2)『木造の可能性<木造による耐火・中大規模建築物>』講演会
非住宅で200㎡を超える規模の建物が増加し、高齢者福祉施設や児童施設、中層の商業施設や事務所などが多く建築されています。
木住協は、今まで非木造の範疇であった建物用途や中大規模建築物の木造化を推進すべく、「木造の可能性<木造による耐火・中大規模建築物>」と銘打った無料講演会を開催しています。
建物の木造化推進に向けた社会的背景や各種法改正の概要や、木造耐火構造・準耐火構造に関する概論、及び中大規模建築物に欠かせない木住協が開発した高強度耐力壁などの紹介を行い、耐火建築物や中大規模の建築物、住宅以外の用途の建築物などの木造化など、木造の可能性について多くの実例を交えて解説します。
2024年度 木造の可能性<木造による耐火・中大規模建築物>講演会