≪開発の軌跡≫ 株式会社鶴弥への 取材インタビュー

新築時の省施工商品 「屋根瓦フルプレカットシステム」

株式会社 鶴弥

すべての瓦を工場で事前にカット
現場の負担を軽減する
「屋根瓦フルプレカットシステム」

 

愛知県に本社を置く株式会社鶴弥は、日本の三大瓦産地の一つである三州地方を代表する瓦メーカーである。明治20年の創業以来、瓦づくり一筋に歴史を重ねてきた同社は、伝統的な瓦の製造技術を継承しながらも、災害に強い製品の開発や生産効率の向上に積極的に取り組み、日本全国の瓦市場において30%を超えるシェアを持つ陶器瓦業界のリーディングカンパニーへと成長を遂げている。
近年、建設業界では作業効率の向上や環境への配慮が重要な課題となっているが、株式会社鶴弥がこの課題に対応するために新たに開発したのが「屋根瓦フルプレカットシステム」だ。このシステムは、従来現場で行われていた瓦のカット作業を工場で事前に行うことで、現場での作業時間の短縮、廃材の削減、環境負荷の軽減を実現した画期的なシステムとなっている。
今回は、愛知県の阿久比工場を訪れ、本システムの開発に携わった加藤氏、酒井氏、山下氏、澵井氏に開発の背景やシステムの特徴、今後の展望などについて話を伺った。

「 屋根瓦フルプレカットシステム」とは どんなシステムなのでしょうか

【酒井】

「屋根瓦フルプレカットシステム」は、その名の通り、瓦をプレカットするシステムです。

屋根はいろいろな大きさ、形がありますので、現状ですと四角い瓦を現場に納めて、屋根工事店様が現場で1枚1枚屋根の大きさ、形に沿ってカットして納めています。

この現場でのカット作業をなくすことを目的としたのが「屋根瓦フルプレカットシステム」で、邸別、つまり家ごとの大きさ、形状に合わせて事前に工場で瓦をカットし、それを施工現場に持っていく。そういったフルオーダーのフルプレカットを行うシステムになります。

酒井湖峰さん
開発部開発1課 課長

このシステムを導入するメリットは?

【酒井】

ひとつ目が施工の省力化です。瓦の工事にかかわる作業時間を屋根材別に見ると、金属屋根や薄型スレート、シングル材などの他の屋根材に比べて、瓦は作業時間が長くかかっていることがわかります。作業の内訳を見てみると、特に多くの時間を取っているのが、半端の瓦を加工する作業です。このカット作業を事前に済ませることができれば、職人様の負担が軽減されますし、工期も短縮することができます。

また、最近重視されている現場の環境改善にも貢献します。これまでのように瓦をダイヤモンドカッターでカットする方法ですと粉塵や騒音が発生しますが、カット済みの瓦を現場に持ち込む本システムではそれがなく、現場がきれいに保たれます。これは屋根工事店様の作業環境や安全性の向上、また近隣住民の方への配慮という意味でも大きなメリットです。

さらに、住宅メーカー様にとっては現場から出る廃材が減るというのもメリットです。このシステムなら現場で瓦のゴミが出ませんので、100平米あたり300kg 以上の瓦のゴミが削減できます。また同時に、現場に持っていく瓦の量や、廃材を捨てにいく運搬作業が減るのでトラックのガソリン消費が少なくて済み、CO2排出量の削減にも繋がります。

プレカットはどのように行うのでしょうか

【酒井】

瓦をカットするには、加圧した水をノズルから噴射するウォータージェット式のカットマシンを使用します。通常ですとウォータージェットでは水に研磨剤を混ぜて切断しますが、私たちは研磨剤を入れずに水だけの力でカットしています。これにより、カットした端材や切り屑に研磨剤が混ざらず、リサイクル原料として再利用できるようになります。カットした廃材は粉砕して舗装材として販売したり、瓦の原料となる粘土のメーカーに持ち込んでまた瓦に戻すという循環ができあがっています。

ウォータージェットを使用する理由は、従来のダイヤモンドカッターのように回転する刃では難しいクランクなどの複雑な形状も自在に切ることができるからです。コンピュータ制御でどのような形状も切断可能ですし、瓦を留め付ける釘穴も事前に開けて納品できるという長所があります。

また、カットのパターン化にも取り組んでいます。プレカットで小さなピースが大量になってしまうと、それぞれに番号を振っていてもどこに使うのかがわかりにくくなってしまいます。そこで、ひとつの法則に則ったカットをすることで、現場で工事店様がひとつひとつ番号を確認しなくても、ある程度感覚で並べていけるようにしています。このパターン化により、瓦のカットサイズがある程度定尺化され、現場に納めるときの荷姿も安定します。

プレカットを実現する上での 課題はありましたか?

【酒井】

フルプレカットが難しかった要因の一つとして、瓦のサイズのバラつきがありました。工業製品とはいえ、瓦は天然の粘土を焼き締めて作るものなので、どうしてもロットごとにサイズのバラつきが生じてしまいます。例えば、幅6~7mの屋根ですと20枚ほど瓦が並ぶので、瓦1枚につき1㎜サイズが違うと全体で2㎝は変わってしまいます。

この課題に対しては、ロットごとの誤差も計算に加えた形で積算できるオリジナルソフトを開発することで対応しました。通常であればCAD で家の屋根を書いて図面上に1枚1枚瓦を並べていかないと必要な瓦の寸法がわかりませんが、このソフトを使えば全て自動で積算できるようになっています。

手順としては、大手ハウスメーカー様であれば屋根の納まりの仕様は決まっていますので、屋根の寸法図をいただき、納まり仕様を加味した形で積算ソフトにその情報を入力します。そしてプレカット工場に瓦ごとのカット寸法のデータを送り、そのデータをロボットに読み込ませて必要な形状に瓦をカットします。その後、カットしない通常の瓦と一緒に梱包し、現場に納めるという流れになります。

私は主に積算ソフトの開発を担当しましたが、正直にいうと、最初は割り付けがそれほど難しいことだとは思っていませんでした。しかし、現場で屋根工事店様それぞれが効率よくきれいに瓦を納める方法を考えていることを知り、何を基準にしてルールをつくればよいのかわからず悩みました。

例えば「すがり」と呼ばれ軒先からさらに屋根が飛び出ている部分では、瓦の納め方の基本はあるものの、その大きさや瓦の枚数は現場ごとに違います。その中で何がスタンダードといえるかを考え、それをプログラムに落とし込むために言語化するという作業が大変でした。

【加藤】

これまで弊社では各住宅メーカー様のマニュアルを作成してきたこともあり、現場でどのように施工するかという知見は社内で共有されていました。ですから、その中で「プレカットを前提とすると、これがスタンダードである」という判断をして進めていきました。

加藤正司さん
執行役員 開発部長

切断機の開発も苦労されたのですか?

【山下】

そうでうね。カットする機械をつくるのも大変でした。通常は研磨剤がないとウォータージェットは成り立たないといわれているにもかかわらず、水だけで切ることに挑戦したので、最初はカットできない、噴射の圧力が足りないといった問題に直面しました。瓦自体が15㎜ほどと分厚く、周辺部は厚みが大きく変化している部分もあるので、そうした部分が切れなかったり、水圧が強すぎて欠けてしまったりすることがあったのです。

【澵井】

それを解決するために、ノズルを動かす速度を調整し、切り始めと切り終わりはゆっくりにしたり、1回で切るのではなく往復させて切るようにしたりしました。また、水を吐出するノズルの径や水を当てる角度などを変えるなど、さまざまな方法を試して最適な条件を探りました。そうやって試行錯誤しながらですが、水だけで瓦を自由にカットできる技術を確立しました

山下絋司さん
阿久比工場 課長補佐

澵井学さん
阿久比工場 班長

今後の展望としては どのようなことを考えていますか?

【加藤】

加藤 本格稼働してから1年半ほど経過していますが、まだまだフル稼働までには至りません。住宅メーカー様にとってメリットの大きいシステムだと思いますが、費用が増えてしまうという課題もあってまだ勢いに乗れていないというのが実情です。環境に優しく、省施工化でき、危険も少ないというメリットをお客様にもっと知っていただくために努力が必要です。

ただ、今は実績が少なくても、他の業界では構造部材のプレカットはほぼ標準化されていますし、瓦についても求められたときにはすぐ対応できるような体制を整えておく必要があると考えています。 私は、いつも従来とは目線の違うものを作ることを目標に仕事に取り組んでいます。そういう仕事であれば若い人たちも夢を持って仕事に取り組めますし、自分も楽しく思えます。

今後も「この手があったか」と思われるような開発を続けていけると嬉しいですね。

【酒井】

酒井 我々開発部としては、単に製品が売れればいいとか、作りやすければいいといいとか、そうした考えだけで製品開発に取り組むのではなく、本当に必要なものが何なのかを考えることが大切だと思っています。今回の「屋根瓦フルプレカットシステム」についても、費用の問題があることは最初からわかっていましたが、瓦メーカーとして将来的に必要な取り組みだという判断をして開発を進めてきたという経緯があります。目先のことも大事ですが、先のこともしっかり考えて皆様に必要なものを提案する。その視点を忘れずに今後も仕事に取り組んでいきたいと思います。

ご入会メリット
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