令和7年2月4日
令和6年度「資産価値のある高耐久住宅研究報告Ⅱ
~木住協が考える「高耐久住宅モデル」のご紹介とライフサイクルコストの比較検証~
リーダー:エバー株式会社 代表取締役社長 江原 正也 氏
コンサルタント:ARU田口設計工房一級建築士事務所 主宰 田口 隆一 氏

エバー株式会社 代表取締役社長 江原 正也 氏

ARU田口設計工房一級建築士事務所 主宰 田口 隆一 氏
資材・流通委員会(入山朋之委員長)は、令和6年度「資産価値のある高耐久住宅研究報告Ⅱ~木住協が考える「高耐久住宅モデル」のご紹介とライフサイクルコストの比較検証~」の報告会を令和7年2月4日に開催しました。今回は、当ワーキングのリーダーであるエバー株式会社 代表取締役社長 江原 正也 氏と、コンサルタントであるARU田口設計工房一級建築士事務所 主宰 田口 隆一 氏が報告を行いました。
令和6年度「資産価値のある高耐久住宅研究報告Ⅱ~木住協が考える「高耐久住宅モデル」のご紹介とライフサイクルコストの比較検証~」の報告会をZOOMで開催
○はじめに
報告会は、木住協 加藤専務理事の挨拶から始まりました。「資産価値のある高耐久住宅研究ワーキンググループ(以下「WG」)は2019年に設置したもので、住宅品質確保法の制定から20年以上、住宅瑕疵担保履行方および長期優良住宅普及促進法の制定から10年を経過し、50~60年の長期保証を掲げる住宅メーカーも出現した頃でした。このような動向が、法制度や住生活基本計画において適切に位置づけられるように発足したのが当WGです。そして、具体的にどのような住宅を建てるか、どのような建材を使えば長期間耐久性のある住宅になるかを議論したところから始まりました。今回のご報告は、主に高耐久化に必要な外皮部分(屋根、外壁、サッシ等)の高品質建材、構法仕様等のご紹介と、併せてライフサイクルコスト(以下、「LCC」)という観点で、初期投資が若干かかるとしてもメンテナンスコストも含めれば、結果的には資産価値としてより良い住宅になる試算もご紹介します。」
○「資産価値のある高耐久住宅研究」WGのこれまでの取り組み
次に、資材・流通委員会 入山委員長から、WGの目的、これまでの取り組みの経緯と報告書の発刊等の説明がありました。「2019(令和元)年に発足したWGがまず初めに目指したのは、耐用年数が30年程度とされていた木造住宅を、60~100年の高耐久化することでした。これを実現させるために、検討のステップを3段階に整理し、1.住宅外皮の高耐久化の実現 2.高耐久な住宅を前提とした長期維持保全計画・LCC評価・履歴管理 3.高耐久な住宅の資産評価の適正化とし、3つのサブワーキンググループ(以下「SWG」)を組織して進めていくこととしました。令和2年度には一年間の活動内容をまとめた報告書を発刊。令和3~4年度は新たに参画した資材メーカーの商材も掲載した「高耐久資料集」を木住協のHPで公開しました。令和5年度からは具体的なモデルプランを設定し、長期維持保全計画に基づくLCCの比較検証を行いました。当研究報告は、令和3~6年度までのWG活動内容をまとめたものです。」
第1章 「資産価値のある高耐久住宅研究」の目的、背景、経緯
WGのリーダーである江原氏から、「資産価値のある高耐久住宅研究」の目的、背景、経緯の説明がありました。「WGの目的は、長期にわたって資産価値を維持できる高耐久住宅の実現です。この目的を挙げた背景と経緯は、日本経済は長い低迷にあり、住宅産業においても年間新築着工数はピーク時170万戸台から70万戸台へと推移しており、先が見えない、閉塞感がある不況産業として低迷しています。このような住宅産業の課題は、供給された住宅の資産価値が短期で低減し、20年余りで資産価値がなくなることにあると考えます。住まい手にとっては生涯年収に占める住居支出は大きな負担であり、資産価値が保全されなければ大きな資産の消滅となります。ちなみに米国では投資に見合う住宅資産が蓄積されており、日本の住宅価値が短命であることは日本経済低迷の要因の一つであると考えられます。 これらの背景を踏まえてWGが最初に問題提起したのは、日本の滅失住宅の平均築後年数が38年であることです。イギリスでは88年、他の諸外国と比較しても日本は半分程度の築年数です。ではなぜ短命なのか?その理由に外皮(屋根・壁)が短命、低品質であると仮説を立て、WGで検証をしました。仮説の根拠は、住宅の不具合事象と不具合部のデータ(公益財団法人住宅リフォーム紛争支援センターのデータ)において、屋根・壁の割合いが全体の60%強を占めるからです。また、外皮の更新スケジュールは約30年、費用は約900万円となるため、LCCの高い住宅となり住まい手の大きな負担となっています。イニシャルコストは安いがランニングコストが高いため、資産価値のない住宅を長期維持するよりも解体して新築にすることにメリットを感じ、『作っては壊し、壊しては作る』という悪循環が現在も続いていると考えられます。 さらに、コスト負担により新築を建てることができない場合は空き家となります。現在約900万戸以上の空き家が存在し、今後も増加傾向になるため、深刻な社会問題となっています。OECDの中で日本は、新築率がNO.1しかし空き家率もNO.1です。これらを踏まえて考えると、資産価値ある高耐久住宅を建てるには外皮の長寿命化、高品質化が鍵となるため、WGで取り組むこととなりました。 今後の住宅産業は、資産価値ある高耐久住宅が住まい手にもたらすベネフィットを訴求し、認知理解して頂くことで供給者と顧客の良好な関係が長期間維持されるよう、企業戦略の転換を図るべきではないでしょうか。これが、住宅産業が低迷から脱出するための、取り組むべき最優先課題であり、目指す方向だと提案します。」と提言しました。
第2章 資産価値のある高耐久住宅の外皮に求められるもの
続いて、江原氏は、資産価値のある高耐久住宅の外皮に求められるものについて解説しました。「資産価値のある高耐久住宅の外皮構造の要件は2点あります。(1)不具合による劣化や損傷の発生リスクに応じた有効な制御措置が講じられていること。木造住宅では、外皮内に水分が滞留すると躯体の劣化につながるため、外皮には建物内外の水分を適切に制御する働きが求められます。雨漏り、内部結露等の不具合による劣化や風害その他の損傷が発生すると、多額の補修費用がかかり資産価値を失います。したがって、外皮の構造・仕様がこれらの劣化や損傷の発生リスクに十分配慮されたものであることが極めて重要です。(2)供用期間を通じたLCCが低減されること。住宅のLCCを低減し資産価値を高めるには、外皮資材の適切な選択と合理的な維持保全計画により、外皮メンテナンス費用の低減を図ることも重要です。さらに、ライフサイクルアセスメントの観点からは、生涯環境負荷を増大させる要因となる資材更新の回数が、供用期間を通じてできるだけ少なくなるような構法・仕様を採用することが求められます。外皮は多くの部材によって多層的に構成され、それぞれ耐用年数が異なるため、部材の耐用年数を相互に関連付け、LCC低減を可能にする構法設計を行うことが重要です。」この後、外皮構法設計上の注意点等、具体的な解説も行いました。
第3章 外皮の高耐久化のための部位別留意点と設計・施工ポイント
次に、当WGのコンサルタントである田口氏から、外皮の高耐久化のための部位別留意点と設計・施工ポイントの話しがありました。「ここで挙げる対策案は、設計の時点だけでなく施工での対応が必要なものもあるため、設計・施工それぞれの対策を組み合わせて採用する必要があります。耐久性の向上が見込める案を提示していますが、相反関係になるものもあるので、採用には十分な検討をお願いします。また、これらに限らず、設計者、施工者が常により良い納まり等を考えていくことが重要です。」田口氏は、屋根、外壁、換気部材、その他(木材・防水等)それぞれの問題点、部位の状況と起こりうる不具合・症状、そして解決策を図や写真を参照しながら、具体的に説明しました。
第4章 高耐久住宅モデルプランの仕様、第5章 高耐久住宅モデルプランの図面集
続けて、田口氏は、モデルプランの仕様について説明しました。「長寿命な住宅の認識は広がっていますが、長期優良住宅認定基準においては、メンテナンスを行うことを前提に、使用する部材についての指定は行われていません。耐久性を考慮しない建材を使用した場合、約10年ごとに大掛かりなメンテナンスを必要とする修繕計画が一般的で、長寿命の建物はメンテナンスコストも高くなることが予想されます。今回のモデルプランは、長期的な建物の総合価値や住まい手のベネフィットをどの程度のラインで判断すればよいかの検証をするために作成したものです。つまり、イニシャルコストとメンテナンスコストの比較・判断材料とできるように、長期優良住宅の仕様による見積と、高耐久資材の仕様による見積を具体的に行えるものとしています。」モデルプラン仕様一覧を、長期優良住宅モデル、高耐久モデル1~4として、各部材をまとめています。図面集では、基本プランを一つ提示し、外皮仕様を変えた5タイプが提示されていました。
第6章 高耐久住宅モデルの維持管理計画表
最後に、田口氏は、高耐久住宅プランの維持管理計画表を示して説明しました。「この維持管理計画表はメンテナンスコストが大きくなる外皮部分について比較検討を行いました。具体的な金額は、2024年時点での参考値です。全てのモデルの共通事項は、適切なメンテナンスを行うことで構造躯体が120年維持可能と想定していることです。足場を掛けてのメンテナンス間隔は、長期優良住宅モデルが10年、高耐久住宅モデルが30年としました。」各モデルのポイントとメンテナンスコストの比較、LCCの比較を表で説明しました。続けて、外皮を主としたLCC比較グラフを見ながら、「長期の建物供用期間を考慮すると、LCCに大きな差が生じることが認識できます。新築時の低価格こそが第一といった近視眼的なイニシャルコスト削減の追求ではなく、資産価値を念頭に置き、この先の課題でもある周辺環境として、金融機関等と連携して、ローン額の積み増しや金利の優遇等の措置が講じられるといったことが実現できると、木造住宅であっても、より長く、それこそ120年住み続けることができ、ストック型社会を実現できると考えます。」と締めくくりました。
第7章 まとめ
最後にまとめとして、江原氏からの話しがありました。「米国のリフォーム率が高いのは、今よりも高い評価を得て住宅の資産価値を上げることにあります。日本もリフォーム率が高いですが、それは今よりも住宅の価値が下がらないようにするためです。また日本は、100年で3回も建て替えをしているのが現状です。今回の報告は、住宅のLCCを見える化したものと言えるでしょう。冒頭に入山氏から説明があったように、WG発足時の構想は検討段階を3つに分け、今回の報告はSWG1の住宅外皮の高耐久化の実現になります。この後、SWG2高耐久な住宅を前提とした長期維持保全計画・LCC評価・履歴管理、SWG3高耐久な住宅の資産評価の適正化を目標としていましたが、しかしながら発足から6年間の活動を経てもSWG2、SWG3のテーマに踏み込んだ議論を十分尽くすにはいたらず、令和6年度をもってWGの活動をいったん休止とすることにしました。背景としては、資材メーカー主体で構成する資材・流通委員会の中での活動という組織上の制約があったことに加えて、住宅の供給事業者が建て主や社会の利益に重点を置いた取り組みにはいまだ消極的で、主体的な参画が得られなかったことが挙げられます。しかし、今回のWG活動を通じて、従来の高耐久住宅の評価基準に欠落していた外皮の構法・仕様に関する議論を深め、有用な情報を収集し発表できたことは一歩前進だと考えています。また一方、住宅業界において既存住宅の価格査定に関わる国土交通省の指針を反映し、メンテナンスの実施状態を加味した査定方式の採用が進み、メンテナンスを継続的に実施する木造住宅の資産価値が長期にわたって評価される環境が整いつつあります。今後も資産価値のある高耐久住宅の実現に向けて、木住協会員と関連他業界とのコラボレーションによる継続的な参加を期待し、勉強会等で取り組んで参ります。」と、江原氏は力説し、報告会は閉会となりました。