令和7年3月4日
「第7回 木造軸組工法住宅における国産材利用の実態調査報告会」
東洋大学 理工学部 建築学科 教授 浦江 真人 氏
株式会社オプコード研究所 研究員 田村 芳子 氏

東洋大学 理工学部 建築学科
教授 浦江 真人 氏

株式会社オプコード研究所
研究員 田村 芳子 氏
資材・流通委員会(入山朋之委員長)は、令和6年度第6回の「住まいのトレンドセミナー」を3月4日にZoomセミナーとして開催し、東洋大学 理工学部 教授の浦江 真人氏と株式会社オプコード研究所 研究員の田村 芳子氏が「第7回 木造軸組工法住宅における国産材利用の実態調査報告会」を実施しました。
東洋大学 理工学部 建築学科 教授 浦江真人 氏と株式会社オプコード研究所 研究員 田村芳子 氏が、「第7回 木造軸組工法住宅における国産材利用の実態調査報告会」を実施
本報告会では、令和6年度に調査を実施(調査対象年度は令和5年)した木造軸組工法における国産材利用の実態調査(第7回目)の結果が報告されました。最初に、株式会社オプコード研究所の田村氏が報告書について解説を行いました。
田村氏はまず配布したアンケートの概要と回答状況について説明しました。
このアンケート調査票は住宅供給会社とプレカット会社に配布。住宅供給会社については、木住協・1種正会員482社に配布し、うち102社が回答。有効回答数は93、有効回答率は19.3%でした。
プレカット会社については、日刊木材新聞社の全国プレカット名鑑と第6回調査を参考に決定した535社に配布し、うち134社が回答。有効回答数は84、有効回答率は15.7%だったとのことです。
続いて田村氏は、住宅供給会社、プレカット会社の順に調査結果について説明を行いました。最初に住宅供給会社の調査結果についてです。
1.供給住宅の概要
ここでは年間供給戸数、地域別の供給住宅数、施工形態、注文形態、1住宅あたりの平均延べ床面積、工法、建物の階数、構造計算の方法などについてアンケート結果の報告が行われました。
それによりますと、年間供給戸数は56,957戸で、令和2年度の前回調査と比較すると8,036戸増加。1住宅あたりの平均延べ床面積については、各社の平均延べ床面積に各社の供給住宅数をかけた戸数ベースの加重平均は112.2㎡で、前回より2.87㎡減少しています。
基準寸法については、約910㎜モジュールが戸数割合で90.8%を占めており、前回から5.6ポイント増加。建物の階数は、戸数比率で2階建が75.4%(前回調査比5.9ポイント減)、平屋建が17.1%(1.8ポイント増)、3階建が7.5%(4.1ポイント増)であり、2階建が主流ではあることは変わりませんが、平屋と3階建が増加傾向にあります。
構造計算の方法については、戸数割合で、仕様規定(壁量計算・N値測定、耐力壁バランス)が56.8%、許容応力度計算が43.2%。許容応力度計算が前回より大きく増加していますが、これは令和7年4月からの4号特例の縮小等の影響も考えられるとのことです。
2.各部位の木材使用状況
管柱、通し柱、土台など12の部位別に、1住宅あたりの平均木材使用量、樹種別使用割合などの使用状況について説明が行われました。
それによりますと、前回と比較し、通し柱、羽柄材(間柱)を除く各部位で国産材の比率が増加。しかし一方で、1住宅あたりの平均使用量は減っています。
また、横架材の国産材比率が他と比べ明らかに低いことから、新規に質問を追加して調査を実施。回答を見ると、国産材を使用しない理由について、「外国産材の方が安定的に調達できる」という答えが最も多く59.7%。次いで「同じ品質・強度の外国産材より価格が高い」が57.1%、「必要な強度の国産材が入手できない」が45.5%となっており、横架材においては強度、価格、安定調達のいずれにおいても、国産材を不安視する声が根強いことがわかりました。
3.木材の調達
木材の調達方法についての調査結果が説明されました。
年間の木材購入量についてはアンケートに未記入の会社が多く、有効回答会社数93社のうち、この設問に回答したのは49社のみとなっていますが、その中で見ると国産材の割合が36.8%となっています。
4.国産材の使用
ここでは国産材に関する質問についての回答が紹介されました。
国産材を使用する理由で最も多かったのは「脱炭素・SDGs推進による企業価値の向上」で31.0%。次いで、「地産地消の推進による地域貢献」が28.2%、「他社との差別化につながる」が25.4%となっています。
反対に、国産材を使用しない理由では「外国産材の方が安定的に調達できる」と「同じ品質・強度の外国産材より価格が高い」がいずれも50.7%で最も多く、安定供給と価格という実利的な部分を不安視する声が多いことがわかりました。
5.ウッドショックの影響について
ここではウッドショックに関する質問についての回答が紹介されました。
「ウッドショック(令和3年)の時期に、それ以前と比べて自社での国産材利用の割合はどのように変わりましたか」「ウッドショック時点と比較して、令和5年では、国産材利用の割合はどのように変わりましたか」という質問に対し、ともに多かったのが「変わらなかった」という回答でした。
また、木材の調達状況の変化については国産材、外国産材、合板いずれもウッドショック時と「変わらない」という回答が最多でした。価格についても「高くなった」とする回答が比較的多く、田村氏は住宅供給会社のウッドショックに関する回答は、予想に反した結果になっていると述べました。
6.森林認証、クリーンウッド法について
令和2年度より追加した、環境対策についての設問を拡充し、クリーンウッド法、森林認証材、カーボンニュートラルやSDGs、サスティナビリティの意識に関する質問に対する回答を紹介しました。
それによると、クリーンウッド法については、53.0%と半数以上が「概要は知っている」と回答。森林認証材の購入割合は平均で62.1%で、前回の55.2%から6.9ポイント増加しました。また、「脱炭素社会、カーボンニュートラルに国産材が貢献していることを認識していますか?」との質問に対し、68.7%が「認識している」と回答しています。
7.非住宅について
住宅供給会社に対しては、非住宅に関する質問も行われました。
その回答を見ると、何らかの非住宅建築物の供給実績がある会社は32社(34.4%)。前回が28社(31.8%)だったので若干増加していることがわかります。種類別に見て件数が多いのは事務所と福祉施設で、1戸あたりの面積で見ると事務所が451.4㎡、福祉施設が656.4㎡となっており、それほど大きくない物件が多くなっています。
続いてプレカット会社の調査結果についてです。
田村氏は、プレカット会社についても国産材やJAS材が増加傾向にあり、アンケート結果について住宅供給会社と大きな違いはないと述べました。
ただし、少し異なる点としてウッドショックに関する質問において、ウッドショック時に国産材利用の割合が「増えた」、ウッドショック時と令和5年を比較し「木材が入手しやすくなった」、「木材価格が安くなった」と回答する会社が多かったことを挙げ、違和感があった住宅供給会社の回答と違い、プレカット会社においては予想通りの結果になっていると話しました。
最後に、本調査の主査である東洋大学理工学部の浦江教授がまとめと考察を行いました。
浦江氏は、本調査の有効性について、今回の調査の有効回答社の年間供給住宅数の合計は住宅供給会社が56,957戸、プレカット会社が123,194戸で、その年の全国の木造軸組工法着工戸数の349,213万戸に対し、それぞれ16.3%、35.3%を占めており、日本の木造軸組住宅の多くに関して調査できたのではないかとしました。
浦江氏は、調査結果をみると国産材の使用割合が住宅供給会社で最高値を更新し、プレカット会社でも増加していることは好ましい結果としながらも、注目すべき点として、住宅の規模が縮小していることを挙げました。
調査結果を見ると、1住宅あたりの平均延べ床面積(加重平均)は、住宅供給会社、プレカット会社ともに減少し、基準寸法も約910㎜モジュールの割合が増加。建物の階数も平屋建てが増加しています。浦江氏は、その結果として、1住宅あたりの木材の平均使用量が減少しているとしました。
また構造計算方法については、許容応力度計算が大きく増加しており、これはより合理的な設計により木材の使用量が減少する流れがあった可能性があると指摘。調査結果として国産材の使用割合は高くなっているが、木造住宅の着工数が減少傾向にある中で、全体の国産材使用量は必ずしも増えていないのではないかと説明しました。
そして、循環型の林業を目指すなかで住宅の需要は減少傾向にあり、国産材の使用割合が高まっても国産材の需要増加には繋がっていないという懸念もあると指摘。国産材の供給が増えないなかで利用率は高まっていることが何を意味するのか。国産材利用の状況について、今後も調査結果や社会状況を注視していく必要があると話し、有意義な報告会を終えました。