令和6年6月4日
「建築物における木材利用の促進に関する林野庁施策~ウッド・チェンジに向けて~」について
農林水産省 林野庁 林政部 木材利用課 課長補佐 日向 潔美 氏
資材・流通委員会(入山朋之委員長)は、令和6年度第2回の「住まいのトレンドセミナー」を令和6年6月4日にZoomセミナーとして開催し、農林水産省 林野庁 林政部 木材利用課 課長補佐 日向 潔美氏が、「建築物における木材利用の促進に関する林野庁施策~ウッド・チェンジに向けて~」をテーマに講演を行いました。
農林水産省 林野庁 林政部 木材利用課 課長補佐 日向 潔美氏が、「建築物における木材利用の促進に関する林野庁施策~ウッド・チェンジに向けて~」を講演
1.森林資源の現状と木材利用の意義
◆森林資源と木材供給の現状
日向氏はまず初めに、森林資源の現状と木材利用の意義についてグラフを示しながら説明しました。
「日本は国土の2/3に当たる約2,500万haが森林で、このうち4割がスギ、ヒノキ等の人工林です。森林蓄積は人工林を中心に毎年約6千万㎥増加し、現在は55.6億㎥。ここ55年で約6倍に増えています。人工林の6割が50年生を越えて成熟し、今まさに利用時期を迎えています。一方、国産材の供給量は、木材輸入の自由化以降減少を続け、2002年には自給率が過去最低の18.8%となりました。これを底として、その後、森林資源の充実や合板等の建築用木材や燃料材に係る国産材の利用拡大によって増加傾向になり、2022年には自給率が約40%までに回復しています」。
しかし、森林資源の持続可能性についての課題も抱えていると日向氏は付け加えます。「森林資源も充実し国産材の供給も増えてきている中で、主伐面積に対する造林面積は3~4割という状況。資源を持続的に維持していくには、「伐って、使って、植えて、育てる」という、循環利用のサイクルをしっかり作っていくことが重要です。これにより、CO2の吸収、水源の涵養、災害の防止という機能の発揮が可能となり、地域の重要な産業である林業・木材産業の活性化により、雇用の創出や地方創生にもつながります。さらに、収穫した木材を建築物として使うことにより炭素が貯蔵される、ウェルビーイングの向上、木の文化の継承等に貢献することにもつながります」。持続可能な木材利用に対する国際的な関心の高まりとして、2023年5月に開催されたG7広島首脳会合での成果についての報告もありました。
◆木材利用の意義
木材の利用は、炭素貯蔵やCO2の排出削減を通じ、カーボンニュートラルの実現に貢献します。気候変動対策としては、パリ協定の下、日本ではカーボンニュートラルの実現に向け、2030年度の温室効果ガスを、2013年度比46%削減する目標を掲げ、このうち、2.7%にあたる約3,800万CO2トンを森林による吸収量で達成することとしています。 森林は高齢化することにより、CO2吸収量が低下する傾向があり、森林吸収量の目標達成に向け、間伐等の実施に加え、「伐って、使って、植えて、育てる」森林資源の循環利用を進め、若い森林を確実に造成していく必要があるといいます。「このほか、木材利用には心身面や生産性の効果、ビジネス面における効果もあります」と日向氏は説明しました。
2.建築物への木材利用をめぐる状況
次に、建築物での木材利用に関する変遷の説明がありました。
戦後、都市の不燃化施策が進められ、建築物の非木造化が進んでいったといいます。「平成10年の建築基準法改正における性能規定化により、木造耐火建築物が実現可能となり、木造建築物の可能性が大きく広がりました。さらに、平成22年の公共建築物等木材利用促進法の制定以降、建築基準の合理化や強度や耐火性に優れた建築用木材等の技術開発などが進展し、公共建築物に加え、民間の非住宅・中高層建築物においても木材利用の可能性が拡大してきました。」。
また、近年、先進的な企業による木造ビルの事例が増えていることについても、事例を示しながら紹介がありました。一方、建築物全体の木造率を見ると、低層住宅以外では、まだまだ低いのが現状です。「低層住宅は、木造率が約8割だが、中高層・非住宅分野は非木造が圧倒的に多い状況です。国内の人口減少が進み、中長期的には住宅需要の減少が見込まれる中で、非住宅や中高層建築物などでの木材の需要を拡大していく必要があります。」と日向氏は説明しました。
3.建築物等における木材利用の促進に向けた取組
◆森林・林業基本計画等
林野庁の取組として、2021年に閣議決定された「森林・林業基本計画」についての説明がありました。
「基本的な方針は、森林・林業・木材産業による「グリーン成長」の実現で、これに向け5つの柱の施策を掲げています。その一つに都市等における「第2の森林づくり」があり、都市・非住宅分野等への木材利用促進を位置づけています。また、林産物の供給・利用に関する目標として、現状の3,100万㎥の供給量を、2030年には約1.4倍の4,200万㎥へ増やしていきます。用途別の利用量の目標は、「建築用材等」を現状の1,800万㎥から2,600万㎥へ増やす計画です。施策推進に当たって特に必要とされる視点として、川上・川中・川下の相互利益の拡大が謳われています。
国産材の需要拡大・利用促進に向けた戦略については、「低層住宅は約8割が木造ですが、使用される木材の5割は輸入材です。このため、低層住宅におけるさらなる国産材の活用と、これまであまり木材が使われてこなかった低層非住宅建築物と中高層建築物拡大を目指し、供給側と利用側ともに対策を進めているところです」。
◆都市の木造化推進法
令和3年に施行された、公共建築物等木材利用促進法の改正法についての説明がありました。
「通称「都市(まち)の木造化推進法と呼ばれ、主な改正内容は、木造利用の意義を分かりやすく示すために、法律の題名・目的に「脱炭素社会の実現に資すること」が明示されるとともに、木材利用促進の対象を公共建築物から建築物一般に拡大しました。
また、民間建築物での木材利用を後押しする仕組みとして、「建築物木材利用促進協定制度」が創設されました。本制度は、建築主となる事業者等は、国または地方公共団体と協定を締結し、必要な支援を受けることができます。川上や川中の事業者が協定に参画することで、地域材の利用促進や、信頼関係に基づくサプラーチェーンを構築するツールとしても活用することができます。協定締結のメリットとしては、メディア等に取り上げられることにより、環境意識の高い事業者として社会的評価の向上が期待されるほか、財政的な支援を受けられる可能性が高まります。協定締結実績は、令和6年5月末時点で、国で19件、地方公共団体で116件と、全国各地で取組が広がっています。」さらに、協定締結の具体的な事例や地方組織への波及効果の事例についての説明がありました。
◆ウッド・チェンジ協議会について
「ウッド・チェンジ協議会は、民間建築物等における木材利用の促進に向けて、経済・建築・木材供給関係団体等、川上から川下までの幅広い関係者が一堂に参画する官民協議会です。課題ごとに5つの小グループを設置し、建築物に木材を利用しやすい環境づくりに向け検討を進めています。協議会によるこれまで成果としては、施主等向けに、建築物の木造・木質化の事例、木造 建築物の標準モデル、木材利用の意義・メリット等をまとめた普及資料を作成し、公表しています」と、低層小規模や中規模の木造建築物の標準モデルや高層木造ビル事例集、内装木質化の建築事例とその効果、川上から川下までの連携事業例集など、様々な普及資料の紹介がありました。
◆木材利用の効果の見える化
林野庁が今年3月に策定した「建築物への木材利用に係る評価ガイダンス」について説明がありました。
「近年、ESG要素を重視した投資等が拡大する中、建築分野では、木材の利用による建築時のCO2排出削減や炭素の貯蔵等のカーボンニュートラルへの貢献、森林資源の循環利用への寄与、空間の快適性向上といった効果に対して期待が高まっています。このような木材利用の効果が建築分野のESG投資等において有効に評価されるよう、建築物における木材利用に係る評価項目や評価方法を整理したガイダンスを作成・公表しました」。
また、2021年10月に作成した、建築物に利用した木材に係る炭素貯蔵量を国民や企業にとってわかりやすく表示する方法を示したガイドラインの紹介がありました。事例を示しながら、「本ガイドラインは、様々な企業や自治体などにご活用いただいています。」日向氏は語りました。
また、建築分野における排出削減の重要性と、LCA(ライフサイクルアセスメント)による木材利用の評価に向けた取組の説明や、令和6年5月に国土交通省が公開した、建築物のライフサイクルカーボン算定ツール試行版の紹介がありました。
◆クリーンウッド法の改正
クリーンウッド法の改正について説明がありました。「改正クリーンウッド法が令和5年5月に公布され、令和7年4月に施行予定です。現在、施行に向けた運用の検討など、様々な準備を進めています。改正法の概要は、川上・水際の木材関連事業者による合法性の確認等の義務付け、素材生産販売事業者による情報提供の義務付け等です。林野庁のウェブサイト「クリーンウッド・ナビ」に関連情報を掲載していますので、ご活用ください」。
(参考)普及資料等の紹介
実際に木造化や木質化に取り組む際に、参考となる資料等についての紹介がありました。「中大規模木造公共建築物事例集、地域間連携推進ツール、技術的な相談窓口、建築物の木造化・木質化に活用可能な国の補助事業一覧、中大規模建築を木でつくるための技術・情報集約サイト等、様々な普及資料等を作成しています。また、地方公共団体や事業者等が建築物での木材利用に取組やすくなる環境づくりの一環として、「建築物の木造化・木質化支援事業コンシェルジュ」を設置しています。」。
日向氏は最後に、「「ウッド・チェンジ」とは、身の回りのものを木に変える、木を暮らしに取り入れる、建築物を木造化・木質化する等、木材の利用を通じて持続可能な社会へチェンジ!する行動を指します。ウッド・チェンジは、木を使うことによって、森を良くする、暮らしを変えることにつながります。ウッド・チェンジに向けて、引き続き皆さまのご支援ご協力をよろしくお願いいたします」と、締めくくりました。