令和6年4月2日
「木造住宅・建築物の振興に関する最近の取組」について
国土交通省 住宅局 住宅生産課 木造住宅振興室長 原田 佳道 氏
資材・流通委員会(入山朋之委員長)は、令和6年度第1回の「住まいのトレンドセミナー」を令和6年4月2日にZoomセミナーとして開催し、国土交通省の原田 佳道・木造住宅振興室長が「木造住宅・建築物の振興に関する最近の取組」をテーマに講演しました。
国土交通省/木造住宅振興室長 原田佳道 氏が、「木造住宅・建築物の振興に関する最近の取組」について講演
原田室長は、はじめに、住宅建築への木材利用の現状と木材利用の意義について説明しました。
現在日本の人工林の半分は50年生を超えて利用期を迎えており、この木材を有効活用するとともに、森林の循環利用を進めることが求められている中で、建築物における木材利用の意義として次の3つが挙げられるとしました。
①安定的かつ持続的な「伐って、使って、植える」の循環により、森林による二酸化炭素の吸収作用の保全と強化。
②製造過程での環境負荷が大きい化石資源の代替により、二酸化炭素の排出の抑制等。
③林業・木材産業の持続的健全な発展を通じた、山村その他の地域経済の活性化。
こうした観点から、建築分野では省エネ対策に加えて、木材利用についても社会的要請が高まっているとしました。
また、民間企業においてもSDGsやESG投資の観点から木造化への取組の機運が高まっていると説明。中高層建築物の木造化の事例も増えており、民間による木材利用の取組が進んでいるとしました。
さらに、民間建築の木造化を促進する動きとして、令和3年に「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(通称、都市(まち)の木造化推進法)が改正。基本理念に上記の3つの木材利用の意義が位置づけられたほか、木材利用に取り組む対象が公共建築物から民間建築物を含む建築物一般に拡大されたと説明しました。
原田室長は次に、国土交通省による住宅・建築物への木材利用の促進への取組について説明しました。
木材利用の促進の取組として、「規制の合理化」「先進的な技術の普及の促進等」「住宅における木材の利用の促進」という3つのカテゴリーで取組を行なっていると説明。それぞれについて詳しく解説しました。
「規制の合理化」については、実験で得られた科学的知見等により安全性の確認を行い、構造関係及び防火関係の規制を順次合理化していると説明。CLTに関する基準の拡大や、4月に施行された大規模建築物でも木材を活用しやすくなる防火規制の合理化など、具体的な例を挙げました。
「先進的な技術の普及の促進等」に関しては、優良なプロジェクトや設計者の育成に対して支援し、中大規模木造建築物の整備を促進していると説明。その取組として、優良木造建築物等整備推進事業による補助、都市木造建築物設計支援事業による設計者向け講習会の開催、中大規模木造建築ポータルサイトによる設計情報等の提供など、さまざまな施策を講じているとしました。また、地域の建設業者や工務店が木造化に取り組めるよう、広く展開できる「構法」とそれとあわせた「部材供給の枠組み」を取りまとめる「中大木造建築普及加速化プロジェクト」など、中大規模木造建築の普及を図るために現在検討している取組についても紹介しました。
「住宅における木材の利用の促進」については、子育て世帯・若者夫婦世帯による高い省エネ性能を有する新築住宅の取得や住宅の省エネ改修等に対して支援を行う子育てエコホーム支援事業、住宅ローン減税の見直しなどについて説明。また、令和3年のウッドショックを踏まえ、中小工務店、建材流通事業者、製材事業者、原木提供者など関係事業者が連携し安定的な木材確保に寄与するモデルづくりにも取組んだと述べました。
また、木造住宅の担い手である大工技能者の減少・高齢化への対応として、有識者、建築大工関係団体等により構成する「建築大工技能者等検討会」による検討や、民間団体等が実施する大工技能者等の確保・育成の取組に対する支援について説明。建築大工技能者等検討会の取組の成果として、大工の魅力発信や大工育成に役立つ情報を発信するウェブサイト「大工になろうNET」「大工を育てるNET」の構築について紹介しました。
さらに、花粉症対策のうちのスギ材需要の拡大の取組の一環として、国産材を活用した住宅に係る表示の仕組みである「国産木材活用住宅ラベル」などについて説明。花粉症対策だけでなく、カーボンニュートラルや地域活性化の観点からも国産材、地域材の活用につながっていく取組であると述べました。
続いて原田室長は、木造建築物にも関わる「建築物省エネ法」と「建築基準法」の改正について説明を行いました。
「建築物省エネ法」の改正については、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた取組のひとつとして行われたものであり、来年施行予定の、すべての新築建築物の省エネ基準適合義務化や、今年4月から開始されている省エネ性能表示の導入などが主な内容であることを説明。
「建築基準法」の改正については、4月に施行された防火規制の合理化に加え、来年には簡易な構造計算で建築できる3階建て木造建築物の範囲の拡大、いわゆる4号特例の見直しや壁量基準等の見直しが予定されていることについて説明しました。
また、これら改正法への適切な対応を支援するため、説明会や講習会の開催、ホームページでの情報提供、相談窓口の設置など、さまざまな取り組みを行なっており、関係者はこれらの支援策を活用しながら改正法への対応を進める必要があるとしました。
そのほか、原田室長は、令和6年1月1日に発生した能登半島地震への対応についても紹介しました。
今回の地震では古い木造住宅等に多数の被害が生じたことから、国土交通省及び建築研究所では、建築構造の専門家等からなる有識者会議において、建築物の被害状況の把握及び被害原因の詳細な分析を行うとともに、分析を踏まえた対策の方向性の検討を開始しており、秋ごろに検討結果を取りまとめる予定だと説明。
また、被災者の住まいの確保の取組の進捗状況についても説明。多数の仮設住宅が建設予定の中、木造の仮設住宅も建設が進められていること、石川県では木造仮設住宅の恒久利用への転換も視野にいれていることなどを紹介しました。
最後に原田室長は、「林野庁をはじめとする関係省庁や地方公共団体、民間の事業者らと連携し、引き続き木造建築の促進に取り組んでいきたい」と話し、講演を終えました。