令和6年3月5日
【第2部】「戸建住宅の見積書の実態と、最近の建設費の動向」について
(一財)建築物価調査会 総合研究所 技術研究科 主任研究員 丸木 健 氏
資材・流通委員会(入山明之委員長)は、令和5年度 第8回の「住まいのトレンドセミナー」を令和6年3月5日にZoomセミナーを第1部と第2部に分け開催しました。第2部は、一般財団法人建築物価調査会の丸木 健・主任研究員が「戸建住宅の見積書の実態と、最近の建設費の動向」をテーマに講演しました。
(一財)建築物価調査会 総合研究所 技術研究科 主任研究員 丸木 健 氏が、 「戸建住宅の見積書の実態と、最近の建設費の動向」について講演
最初に丸木主任は、見積書の調査を行った背景について、建築工事の見積書は、非木造(S造プレハブ建築を除く)の場合、「建築工事内訳書標準書式」に基づいて作成されることが一般的であるのに対し、戸建住宅については標準的な見積書式がなく、施工会社によって内容が大きく異なっていると説明。一般消費者が総額以外で、各社の見積書を比較することがとても困難になっていることから、戸建住宅の見積書の実態を調査し、見積書の構成内容を考察する必要があったと話しました。
最初に丸木主任は、見積書の調査を行った背景について、建築工事の見積書は、非木造(S造プレハブ建築を除く)の場合、「建築工事内訳書標準書式」に基づいて作成されることが一般的であるのに対し、戸建住宅については標準的な見積書式がなく、施工会社によって内容が大きく異なっていると説明。一般消費者が総額以外で、各社の見積書を比較することがとても困難になっていることから、戸建住宅の見積書の実態を調査し、見積書の構成内容を考察する必要があったと話しました。
丸木主任は「内訳有見積書」について細かく見た集計結果について、以下のように述べました。 まず見積書の「科目数」については、ハウスメーカーが平均で13.4、工務店が21.4と工務店のほうがやや多い結果となっています。また最小値と最大値を比べると、それぞれ7科目と35科目となっており、大きな開きがありました。なお、標準書式に則り科目をつくっている会社は1件もなかったということです。 次に「細目数」については、平均値でいうとハウスメーカーでも工務店でも大きな差はありませんが、最小数が54、最大数670となっており会社によって大きく形式が異なっていました。
次は「諸経費」と「値引き」の計上があるか、計上がある場合はどれほどの率を計上しているかという集計結果についてです。 「諸経費」については、およそ1/3の会社で計上があり、その場合の金額の割合は平均7.6%でした。そして「値引き」については計上している会社はおよそ半数ありました。ここで丸木主任は、ハウスメーカーについて「諸経費」と「値引き」の平均値を見ると、「諸経費」が7.3%、「値引き」が9.8%となっており、「諸経費」より「値引き」を多く計上しているケースが多く見られると指摘しました。
丸木主任はこうした現状について、個人的な意見としながら、見積書は消費者に見せるための営業ツールという使われ方の性質が強いのではないかと分析。とくにハウスメーカーにおいては、その傾向が強いのではないかとしました。また、消費者の目線に立って考えると、細目が多ければいいというものではなく、どのような見積書が理想なのか今後考えていく必要があるとしました。
続いて丸木主任は、建設費の動向について説明しました。 まず建築資材の価格について、過去30年間の毎月の建築資材の価格を指数化したグラフを用いて解説を行いました。建築資材全体としては、コロナ禍明けの時期より価格が急騰しており、3年でおよそ3割値上がりしています。これは過去のデータを見ても例のない上昇率であり、下がる気配も見られないということです。
続いて丸木主任は厚生労働省の「毎月勤労統計」を基にした資料を掲示し、労務費の動向について説明しました。それによると、全産業では2021年までほぼ横ばいだった労務費が、ここ2年で急激に上昇しています。建設業だけについて見ると、アベノミクスが始まった2012年の指数が約87だったのに対し、2023年はおよそ15パーセント上昇し、104になっています。 また、国土交通省の「公共工事設計労務単価」に基づく資料を見ると、公共工事についても、2012年以降は労務費が急激に上昇しており、職種によっては2012年と比べ6割以上も上昇しています。丸木主任は、国土交通省により労務単価費が昨年から5.9%引き上げられたことや、資材価格の高騰などを考えると、今後も労務費は上がる傾向にあると話しました。
次は建築費についてです。国土交通省の「住宅着工統計」に基づく指数によると、建築資材の高騰を反映して2020年後半から建築費は急激に上がっています。直近の建築費の指数は130近くとこれまでで最も高い数値となっており、現状の高騰ぶりがわかる丸木主任は話しました。 また、日銀短観を基に建設に関する販売価格と仕入価格の動きを数値化したグラフを見ると、仕入価格は2020年ごろより急激に上昇していますが、同時に販売価格も上昇しています。ここ数年、資材価格と労務費の上昇が販売価格に反映できないという話がよく聞かれましたが、現在はすべてではないがある程度は転嫁できているのではないかと丸木主任は話しました。
次に全国の戸建住宅の着工数をまとめたグラフについて解説しました。 それによると、2023年の着工数は大きく落ち込んでおり、昨年比で1割程度、2021年と比較すると2割弱の数字になっています。しかし、工事費予定額を見ると微増しており、単価が上がっていることが見て取れると丸木主任は説明しました。 また、2019年~2023年の注文住宅の月別の着工数推移を示したグラフを見ると、2023年は最も着工数が少なくなっており、とくに10~12月は過去と比べ落ち込みの度合いが大きくなっています。 一方、分譲住宅について見てみると、戸数は減っているものの過去を上回っている月もあり、健闘していることが見て取れます。
続いて、木造軸組構法の注文住宅の床面積と単価を都道府県別にプロットしたグラフです。これを見ると、最も単価が低いのは京都府、次に大阪府となっています。一方最も高いのは長野県で、丸木主任は、軽井沢などで別荘が増えていることが理由ではないかと推測しました。また、軸組構法が少ないとされてきた沖縄県でも、戸数と単価の上昇が見られるということです。
丸木主任は、次に参考資料として世界各国の物価指数を掲示し、各国の物価推移を説明しました。日本はここ30年ほどほぼ横ばいで指数が推移していますが、アメリカ、イギリス、スイス、韓国は上昇を続け、2021年から2023年にかけてはとくに上昇の幅が大きくなっています。 また、世界のビックマックの価格を比較したビッグマック指数といわれるグラフを見ると、2024年1月で55カ国中、日本は45番目と非常に物価が安い国になっています。 丸木主任は「こうした状況を踏まえると、日本の資材価格、労務費、そして住宅の販売価格も今後上がっていくでしょうし、上げていかなければなりません」と話し、講演を終えました。