令和6年3月5日
【第1部】「木造工事積算手法(数量積算基準及び内訳標準書式)の調査研究」について
(一財)建築コスト管理システム研究所/企画調整部長 小林 宏 氏
資材・流通委員会(入山明之委員長)は、令和5年度 第8回の「住まいのトレンドセミナー」を令和6年3月5日にZoomセミナーを第1部と第2部に分け開催しました。第1部は、一般財団法人建築コスト管理システム研究所の小林 宏・企画調整部長が「木造工事積算手法(数量積算基準及び内訳標準書式)の調査研究」をテーマに講演しました。
(一財)建築コスト管理システム研究所/企画調整部長 小林 宏 氏が、「木造工事積算手法(数量積算基準及び内訳標準書式)の調査研究」について講演
小林部長は、まず木造建築工事に関する数量積算基準と内訳標準書式の調査研究を行った背景について説明しました。 現在、木造建築物が増えつつありますが、その一方で木造建築物の工事価格を作成するうえで基本となる数量を算出するための計測・計算の方法はさまざまで統一された数量積算基準等がありませんでした。また、建築基準法において、木造は建物構造形式の1構法でRC造やS造と同等の位置付けとなっており、公共工事の施工仕様書として適用される「公共建築木造工事標準仕様書」では、軸組構法、枠組壁工法(2×4工法)、CLTパネル工法、丸太組構造などについて規定し、土・地業・基礎工事、各種仕上工事、排水、舗装、植栽工事等については、RC造やS造等で適用する「公共建築工事標準仕様書(建築工事編)」を適用するとしています。
こうしたことから木造建築の数量積算基準の整備が急がれることとなり、対象を「住宅を除く、低層で小規模の軸組構法(壁構造系・軸構造系)の建築物」に絞り研究を進めたと説明しました。
また、仮設・土工・地業・コンクリート・鉄筋・仕上は、現行の数量積算基準や内訳書式が利用可能であることから、木造建築の数量積算基準と内訳書式は、現行の建築数量積算基準(RC造、S造など)及び内訳書式と一体で整備することが効率的と考え、これを踏まえて研究を進めたといいます。
木造の数量積算基準等を検討するにあたっては、市場に見る「木造建築物の木材の数量の算定方法」、非木造建築における数量算定の方法、施工の方法などを踏まえ研究を進めたそうです。
木躯体の数量算定においては、①部材長さの計測・計算と②製材等の所要数量の計測・計算について研究を進め、①部材長さの計測・計算では、1つ目として接続する部材相互の内法長さを基に、仕口及び継手長さを加え求める方法を、また2つ目として接続する部材相互の内法長さを基に、仕口及び継手長さに相当する率(割増率)を乗じ求める方法について研究し、②製材等の所要数量の計測・計算では、①で求めた部材長さをベースに、1つ目として部材長さに応じた定尺寸法を基に、体積を求める方法を、また2つ目として部材長さを基に、定尺寸法に相当する率(補正率)を乗じ、体積を求める方法について研究を進めたとのです。
こうした研究結果を踏まえ、木造の数量積算手法の検討方針として、建物固有の仕様の影響を受けづらく、現場の施工実態や市場の現状を反映しやすい方法について整理するものとし、①部材長さの計測・計算については、接続する部材相互の内法長さを基に、仕口及び継手長さを加え求める方法を、また②製材等の所要数量の計測・計算については、部材長さに応じた定尺寸法を基に体積を求める方法をとることとし、以下のように検討結果をまとめたと説明しました。
木材の数量の計測・計算方法の検討結果
・部材長さは、接続する部材相互の内法長さに、仕口(のみ込み)及び継手長さ(重なり長さ)を加えた長さとする。
・仕口及び継手長さが設計図書に記載されていない場合は、仕口の寸法は、50mm程度、継手の寸法は、150mm程度とする。
・木材の数量は、木材の断面積と部材長さとによる体積とする。
製材等の数量の計測・計算方法の検討結果
・製材の数量は、製材の仕様(樹種、等級、寸法及び含水率等)の長さごとに区分した体積または本数とする。
・製材の長さは、3m以上を1mごとに区分する。
・製材の長さは、「直角出し」に必要な端部の切り落としの寸法を考慮する。
・同一の仕様の部材長さの短い複数の部材があるときは、木取りにより、複数の部材を組み合わせた長さとする。
・複数の部材の木取りは、対象とする材の内、部材長さが最も大きいものから順次同位または下位の材とを組合せる。
・複数の部材を木取りする場合、標準とする製材等の長さは、4mを標準とする。
続いて小林部長は、これらの検討結果に基づいて作成した新たな建築数量積算基準(木躯体・仕上)について、その一部を紹介しました。
まず第5章の木躯体(軸組構法)の主文では、この基準の適用の範囲を明確にするため、住宅を除く低層で小規模の軸組構法(壁構造系)及び軸組構法(軸構造系)の建築物に適用することを示しました。そして、第1節の木躯体(軸組構法)の区分では、軸組、床組、小屋組、壁、階段及びその他の各部分に区分することを明記。部材や木取りの定義も行うとともに、各部材は階ごとに区分することとしています。
第2節の木躯体(軸組構法)の計測・計算では、部材長さは、この基準で別に定める場合を除き、接続する部材相互の内法長さに、仕口(のみ込み)及び継手長さ(重なり長さ)を加えた長さとすると規定するとともに、仕口及び継手長さが設計図書に記載されていない場合は、仕口は片側あたり0.05mとし、継手長さは0.15mを標準とするとしています。
また、木材の数量は、設計寸法による木材の断面積と部材長さとによる体積とすることを示し、さらに木材について所要数量を求めるときの製材の仕様を明確化。製材の長さは3m以上を1mごとに区分することや、製材の長さは、部材長さに0.05mを加えた長さをm単位に切り上げた長さとすることが示されています。
次に小林部長は、木造の内訳標準書式等の検討について説明を行いました。
既存の内訳標準書式は、数量積算基準同様、非木造建築を対象にまとめられていますが、新たな内訳書の書式においては、数量基準において、製材等の数量を軸組、床組、小屋組、壁等に区分すること。製材等の数量は「所要数量」とし、摘要欄に所要数量の算定の元となる「部材長さの合計」と「部材本数の合計」を併記すること、仕上の内訳明細には、木造標準仕様書に掲載された代表的な項目を追加することなどを加え見直しを図ったといいます。
続いて小林部長は、今回の木造建築の数量積算基準の制定に合わせ、建築コスト管理システム研究所が開発した「木造建物数量木取り計算プログラム」を紹介しました。
小林部長は、このプログラムについて、設計図より計測・計算した木材の数量(仕様・部材寸法ごとの本数)から「建築数量積算基準」の木取りの規定に基づき、製材等の所要数量を求めることができるものとし、特徴として、①定尺長さごとの所要数量を効率的に求めることができること。②汎用性が高いExcelを使用しており各種分析など幅広く活用できること。③所要数量の結果のみではなく、部材同士の組み合わせの履歴が確認できることを挙げました。
最後に小林部長は、「建築数量積算基準(木躯体・仕上)」「建築工事内訳書標準書式」については、官民合同の建築工事積算研究会において審議・承認され、昨年6月に「建築数量積算基準・同解説 令和5年版」として、また、「建築工事内訳書標準書式・同解説 令和5年版」として刊行していることを紹介。そして「木造建物数量木取り計算プログラムも当研究所のホームページで公開しており、現在は無料でダウンロードいただけますので、ぜひご活用ください」と話し、講演を終えました。