令和6年2月6日
「建産協の物流課題への取り組み」について
(一社)日本建材・住宅設備産業協会 標準化推進部長 中杉 聡氏 氏

資材・流通委員会(入山朋之委員長)は、令和5年度 第7回の「住まいのトレンドセミナー」を2月6日にZoomセミナーとして開催し、(一社)日本建材・住宅設備産業協会 標準化推進部長 中杉 聡氏が、「建産協の物流課題への取り組み」の説明を行いました。
(一社)日本建材・住宅設備産業協会 標準化推進部長 中杉 聡氏が、 「建産協の物流課題への取り組み」についてZoom講演
昨今、社会的な問題となっている「物流2024年問題」。これは、働き方改革関連法によって2024年4月1日以降、「自動車運転の業務」に対し、年間の時間外労働時間の上限が960時間に制限されることで発生する諸問題の総称です。物流業界にも大きな影響を与える問題として、注目されています。
今回は、(一社)日本建材・住宅設備産業協会(以下:建産協)の中杉部長から、①「物流2024年問題」の背景、動向。②建産協の物流課題検討会議についての説明がありました。
「まず、「2024年物流問題」の背景、動向ですが、国内貨物輸送量・輸送手段の推移を見ると(2011年~21年)、ほぼ横ばいで推移し、重量ベースでは自動車が9割を占めています。モード別輸送(重量×距離ベース)では、自動車が約5割、内航海運が約4割を占めます。直近の物流の変化で注目する点は、貨物一件あたりの貨物量がここ20年で半減する一方、物流件数はほぼ倍増しており、物流の小口多頻度化が急速に進行しています。また、2010年以降の積載率は、40%以下の低い水準で推移しています。
次にトラックドライバーの働き方に関する現状を見ると、全産業と比較した場合、年間労働時間は約2割長く、年間所得額は近年微増傾向にありますが、全産業に比べ5%~10%程度低い水準となっています。また、有効求人倍率は全産業の約2倍で人手不足感が強く、平均年齢についても全産業に比べて4~6歳ほど高くなっています。従業員構成としては他産業に比べて40歳~50歳の占める割合が高く、若年層と高齢層の割合が低くなっています」と、中杉部長はグラフを見ながら説明しました。
働き方改革関連法により、2024年4月から適用されるトラックドライバーの労働時間管理の主な改正点は、時間外労働の上限規制が960時間となります。上限を720時間(一般則)への移行は継続検討中です。時間外労働の割増賃金引上げもあり、月60時間を超える時間外労働に対して、50%以上の割増賃金を支払わなければいけません。 また、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に、一定以上の休息時間を確保しなければいけないという勤務間インターバル制度では、休息9時間以上を義務とし、11時間以上を努力義務として定められました。これらの改正点による荷主企業への影響を、中杉部長は話します。
「物流効率化、物流労働環境の改善に取り組まなければ、物流コストの上昇や輸送リソースの取り合いが始まり、モノが運べなくなる、モノが作れなくなる時代がやってきます。「「物流2024年問題」の影響により不足する輸送能力試算は、全体を見るとコロナ前の2019年比で最大14.2%の輸送力不足となり、2030年には34.1%(9.4臆トン)の不足が予想されます。我々の建設業・建材業界も、現状で10.1%の輸送力不足となっています。特に建材・住宅設備物流は特殊性があり、運送業者から嫌われる業界と言われています。理由は、一つには物流形態による物流への負荷が大きいことが挙げられます。物件ごと、商品ごとに多数、多品種、異形であり、そして重い。建設工程に合わせた納品、現場ごとに変わる搬入条件、工事付き搬入といった特殊な物流形態であるからです。また、サプライチェーン構造、商慣習による物流構造の複雑化もあります。川上(メーカー)、川下(供給主体)ともに、企業数が、中小企業が大多数、商流が多段階で複雑、商材、商流、供給主体ごとの変わる商慣習、附帯作業の多さ(積み下ろし、積替、フォーク作業)が挙げられます。物流の停滞、物流コストの上昇が、業界の生産性や企業経営を圧迫しています。これからは、効率的で持続可能な物流への変化が必要です」。
次に、「物流2024年問題」に関する政府の取り組みについての説明がありました。
「政府はハード・ソフトの両面で、問題解決への取り組みを始めています。2023年3月には、「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」を設置。これは、荷主、事業者、一般消費者、政府が一体となって、我が国の物流を支える環境整備について総合的な検討を行うものです。同年6月には、抜本的・総合的な対策をまとめた「物流革新に向けた政策パッケージ」を決定しました。また、経済産業省における対応の方向性は、●物流プロセスにおける現状の不効率性の改善を図る。●営業用トラックの積載率は約38%(2020年度)で、50%に向上していくことが必要。●トラックドライバーの1運行の平均拘束時間の内、荷待ち・荷役作業等に係る時間は計約3時間(2020年度)で、これを1時間以上短縮することが必要としています」。
次に、「物流2024年問題」への取り組みについて、各業種のトピックスと具体的な対応策を表やグラフで説明。
「トピックスを見ると、百貨店やスーパー、食品、鉄鋼等、様々な業界と国が問題解決に取り組んでいるのが分かります。特に食品業界は一番進んでいると言えるでしょう。対応策を講じている企業は全体の6割を超えますが、一方運送業界では残業時間の上限を上回る運転手を抱える企業が3割弱あり、改善する点だと考えています」と、中杉部長は強調しました。
「物流2024年問題」への対応として、2023年3月に「フィジカルインターネット実現会議 建材・住宅設備WG」(経済産業省、国交省主催)において、2030年までのアクションプランが策定され、アクションプランを実行・推進する組織(タスクフォース。以下「TF」)を立ち上げ、検討状況のフォローアップ等を行うこととされました。今後、TFの取り組みを始めとした物流課題に対応するために、建産協は2023年6月に建材・住宅設備メーカーを中心として、「物流2024年問題」の検討の機会を設けることを目的とした「物流課題検討会議」を設置しました。当会議の位置付けを図で表し、政府との協力やガイドラインの作成、アクションプランの実行・推進等の説明がありました。「当会議における建産協の役割は、「フィジカルインターネット実現会議 建材・住宅設備WG」への提言と、サプライチェーンの川上業界団体として、国の政策対応や新たに取り組むべき課題の検討です。ミッションとしては、2030年までのアクションプランの取り組み項目の検討。物流対策自主行動計画の策定。それ以外で業界として取り組むべき項目の検討、物流情報共有等が掲げられています。2023年度の活動計画は、「フィジカルインターネット実現会議 建材・住宅設備WG」の商習慣見直しTFへの納品条件適正化に向けたガイドライン案の作成・提案。物流対策自主行動計画の策定・提出です。運営体制は、商習慣見直しWG、垂直連携円滑化WG、共同輸送WG、自主行動計画策定WGに分かれてそれぞれが活動しています。当会議はいままでになかったことですが、現場をよく知る物流担当者が数多く参加しているため、闊達な議論が展開されています」。
次に、当会議による企画講演や各WGの活動についての説明がありました。
「企画講演は各企業の取り組みを紹介し、聞く側も同じ課題を抱えるためリアル感がありました。情報共有を図るためにも役立っていると思います。WGの活動についてですが、自主行動計画策定WGでは、建産協の自主行動計画を策定。工程表も作成し、今後は会員企業、関係業界団体への周知活動を展開予定です。詳しくは建産協のHPでご覧頂けます。
また、商習慣見直しWGでは、先行事例や事業者アンケートを活用してガイドライン案の項目を選定し、納品条件適正化に向けたガイドライン案を作成しました。目的は、トラックドライバーの荷待ち・荷役作業等にかかる時間が現在約3時間と推計されるため、これを2時間以内に短縮することを目指し、さらに物流の負担軽減・適正化を図るものです。これは今年度内の制定を予定しており、次年度の周知企画案も本会議で検討中です」。
最後に、次年度以降の取り組みの方向性についての話がありました。
「持続可能な建材・住宅設備物流のために、さらなる物流の省力化、効率化への取り組みは必然です。そのためには、議論することが大事だと私は考えます」と、中杉部長は締め括りました。