令和5年12月5日
「4号特例縮小に関する対応と課題」について
株式会社M's(エムズ)構造設計/構造塾 代表取締役社長 佐藤 実 氏
資材・流通委員会(入山朋之委員長)は、令和5年度 第6回の「住まいのトレンドセミナー」を12月5日にZoomセミナーとして開催し、株式会社M's(エムズ)構造設計/構造塾の佐藤 実・代表取締役社長が「4号特例縮小に関する対応と課題」をテーマに講演しました。
M's構造設計/構造塾 代表取締役社長 佐藤 実 氏が「4号特例縮小に関する対応と課題」についてZoom講演
佐藤代表取締役は、4号特例縮小について解説するにあたり、まず木造住宅に関連する法改正のこれまでの流れを説明しました。
まず1981年に建築基準法の改正が行われ、施行令46条で壁量計算の基準が定められました。そしてその3年後の1984年に、今回の議題となっている4号特例が施行。この4号特例は建築確認申請を出す際に壁量の計算書の提出を省略するというもので、以来39年間改正が行われないままでした。
81年基準の壁量計算は、導入時点では木造住宅の耐震性能を十分に満たすものと考えられていましたが、1995年に発生した阪神淡路大震災の被害調査の結果、壁量が足りているだけでは不足で、耐力壁の配置のバランスによりねじれて壊れる物件があったことがわかりました。そこで、2000年に再度建築基準法の改正が行われ、81年の壁量基準に加え、四分割法とN値計算が追加されました。さらに、別の法律として品確法が施行され、耐震等級3が制定されました。
耐震等級については、いまだに耐震等級1で十分だと考える住宅業者も多いと佐藤代表取締役は指摘。現在の耐震等級1という基準は、81年の壁量計算、00年の四分割とN値計算が基準となっていて、長年アップデートされないままですが、その理由は阪神淡路大震災以降、度々発生している震度7クラスの地震の被害調査の結果、国が考える「安全な家」の基準を満たしているからだといいます。しかし、この「安全な家」という基準については、国が考えるレベルと住宅事業者や実際に住む一般の人々が考えるレベルに大きな隔たりがあるとしました。
国が考える「安全な家」の基準は、震度7クラスの地震に対し1回の発生なら倒壊せず中の人の生命が失われなければいいというものです。一方、一般的な人が考える基準は、同クラスの地震が数度きても家が損傷せず、住み続けることができるというものです。耐震等級1の家は強い地震が数回発生しても住み続けることができるという認識でいる人がいますが、実際の法律ではそこまで保証されていないといいます。佐藤代表取締役は、建築業者が耐震等級1の家をつくり続けることは、地震1回で住めなくなってもよしとする家づくりをしているのと同じだということを認識しなければならないと話しました。
また、震度7の地震が2回発生した2016年の熊本地震においては、耐震等級3の家は倒壊例がなく、続けて住み続ける性能を有していることが証明されています。このことからも今後は耐震等級3が最低限の基準となることがわかると佐藤代表取締役は述べました。
次に佐藤代表取締役は、改めて4号特例とは何かについて説明しました。
現行の建築基準法において4号建築物の枠組みに入る木造建築物の規定は、最高高さ13m以下、かつ最高軒高9m以下、階数2階建て以下、そして延床面積が500㎡以下となっていて、現在建っている小規模の木造住宅のほとんどはこの4号建築にあたります。そして、この4号建築物が行うべき耐震性能などの構造の規定となるのが仕様規定であり、壁量計算、壁配置のバランス(四分割)、柱頭柱脚の接合(N値計算)という3つの計算により簡易的な構造安全検討を行います。
4号特例とは、確認申請時にこの仕様規定の提出図書を省略でき、チェックを受けなくて済むというものです。ただし、計算の省略ではなく提出図書の省略なので、計算をしなくていいというものではありません。
よって4号特例の縮小とは、仕様規定に関連する図書を確認申請提出義務に戻すだけであるということであると佐藤代表取締役は説明しました。
さらに佐藤代表取締役は、ここでよくある思い違いをふたつ挙げて解説を加えました。
ひとつめは「仕様規定がなくなり、木造2階建ても「許容応力度計算」が義務化になるというものです。佐藤代表取締役は、個人的にはそうなるべきだと思うとしながらも、法的に義務化にはならないと説明。ただ提出義務になるだけであるとしました。
そしてもうひとつの思い違いは「今後は壁量計算をしなければならない」というものです。これについて佐藤代表取締役は、この考えはそもそも4号特例を理解していないことから生ずるもので、当然だが現在でも壁量計算は義務であると述べ注意を促しました。
次に佐藤代表取締役は、4号特例に関する建築基準法の詳細を説明しました。
それによると、改正後の法6条においては4号建築物がなくなり、木造建築は2号建築物(最高高さ16m超、または階数2以上、または延床面積200㎡超)と3号建築物(最高高さ16m以下、かつ平家建て、かつ延べ床面積200㎡以下)に分かれます。また、法20条の枠組みにおいては、2号(大規模木構造)、3号(中規模木構造)、4号(小規模機構造)に分かれます。法6条2号建築物でありながら20条の4号に値する規模の建築が仕様規定となり、壁量計算等の計算基準で特例はなくなります。そして、法6条3号建築物のうち20条の4号に値する規模の建築については特例が残り、図書の提出義務はありません。
なお、今回大きな改正として、壁量基準の見直しと柱の小径基準の見直しが行われるということです。これまでは「軽い屋根」「重い屋根」の区分に応じて必要壁量や柱の小径を算定していましたが、木造建築物の多様化に伴い、木造建築物の仕様の状況に応じて必要壁量・柱の小径を算定できるように見直されます。
また、算定を行うためのエクセルのツールも提供されており、ダウンロードすれば簡単に計算できるようになるということです。
続いて4号特例縮小の対応策についてです。
これについて佐藤代表取締役は、法改正に順次対応していくより、最初から高性能を目指したほうが有益であると説明しました。
その理由として、例えば省エネについていえば、2000年の品確法で等級4ができましたが、昨年新たに等級5ができ、さらに6、7と基準は高くなっています。つまり、2000年には最高等級と謳えたものがいまや日本の中間的な等級になっており、さらに2030年には既存不適格になってしまいます。
このように、最低基準を追いかけるだけでは見直しを迫られることが多くなってしまうと佐藤代表取締役。しかし、許容応力度計算を行ない、耐震等級3という基準をつくり続けていけば、法改正にその都度対応する必要がなく、常に最高等級を謳い続けることができます。そうすることでユーザーへのアピールが強く保たれるうえ、自社内で仕様変更をする必要もないため、高性能を目指すことこそが対応策として最も有効であると説きました。
次に佐藤代表取締役は、4号特例縮小の「落とし穴」について説明しました。
まず気を付ける必要があるのは、仕様規定の書類提出時に構造関係の書類が省略されていること。これにより2020年の建築士法改正により義務化された4号建築物の15年の図書保存を失念する恐れがあるとのことです。
また、仕様規定において基礎の断面形状や配筋などの構造方法が規定されていますが、これはあくまで最低基準であり、実際の断面・配筋は計算により算出すべきであるとしました。この規定を最適基準と考えてしまうと、最低限の基準しか満たすことができず、本当の安心・安全にはつながりません。 そして同様に、横架材の欠込みについても仕様規定にとらわれず安全性を確認する必要があるとしました。
さらに、構造安全性確認の方法について、①許容応力度計算(構造計算)、②品確法の計算、③仕様規定の計算がありますが、仕様規定の計算は最も安全レベルの低い計算方法であると説明。しかも仕様規定にこだわってN値計算を行う場合、むしろ大変な手間がかかることになると説明しました。佐藤代表取締役は、それよりも構造計算ソフトを購入し許容応力度計算をしたほうが安全で経済的であることを強調。しかも設計自由度が高く、作業も楽であるとし、ぜひこの方法を選んで欲しいと話しました。
最後に佐藤代表取締役は、「やはり建築基準法はあくまで最低基準。命を守る性能しか持っておらず住み続ける性能を追いかけているわけではない」と話し、そのギャップを埋めるのが建築士、建築業者の役割であるとしました。そして、そのためには「最低基準」に従うのではなく「最適基準」を自分たちがつくっていかなければならないとし、話を終えました。