令和5年6月6日
「建築物における木材利用の促進に関する林野庁施策~ウッド・チェンジに向けて~」について
農林水産省 林野庁 林政部 木材利用課 課長補佐 日向 潔美 氏

資材・流通委員会(入山朋之委員長)は、令和5年度 第2回の「住まいのトレンドセミナー」を6月6日にZoomセミナーとして開催し、農林水産省 林野庁の日向 潔美・林政部 木材利用課長 課長補佐が「建築物における木材利用の促進に関する林野庁施策~ウッド・チェンジに向けて~」をテーマに講演しました。
日向・林政部 木材利用課長 課長補佐が「建築物における木材利用の促進に関する林野庁施策~ウッド・チェンジに向けて~」についてZOOMで講演
1. 森林資源の現状と木材利用の意義
まず初めに日向氏は、森林資源の現状と木材利用の意義についてグラフを示しながら説明しました。「日本の森林面積は国土の7割に当たる約2,500万haで、このうち4割がスギ、ヒノキ等の人工林です。森林蓄積は人工林を中心に毎年約6千万㎥増加し、現在は54億㎥。50年生を越える人工林が現在5割を超えてきたところであり、戦後先人たちが植えて育ててきた人工林が今まさに利用時期を迎えています。一方、木材供給量の推移は、昭和30年頃は6,000万㎥で自給率は100%近くありましたが、木材輸入の自由化により急速に減少、国産材の供給量が最も下がったのが2002年の約1,700万㎥で、自給率は18.8%。その後、森林資源の充実や技術革新などを背景として増加傾向になり、2021年には3,372万㎥と2002年から約2倍となり、自給率は41.1%に回復する状況となっています。
森林資源も充実し国産材の供給も増えてきている中で、資源を持続的に維持していくには、利用時期にある人工林を収穫して、木材として使って、それによって得られた収益で植えて、育てるという循環利用のサイクルをしっかり回していく必要があります。木材の需要の拡大は、このサイクルを回すエンジンとして、非常に重要です」。次に建築物への木材利用の意義については、「森林から搬出された木材を建築物に利用することは長期間にわたって炭素を貯蔵することができ、都市に第二の森をつくる効果があるといえます。また木材は鉄やコンクリートと比べて製造や加工に要するエネルギー消費が少ないため、建設にかかるCO2排出量を削減することが可能です。このような性質を持つ木材は、2050年カーボンニュートラルに貢献します」。ビジネス面における効果も、事例を踏まえながら説明がありました。さらに、心身面に与える良い効果を科学的なデータを示しながら説明し、「木材は地球にも人にも優しい資材です」と力説しました。
2.建築物における木材利用の促進に向けた取り組み
◆2050年カーボンニュートラルに向けた取り組み
気候変動対策における国際的な法的枠組みとして採択された「パリ協定」等を踏まえ、令和3年に「地球温暖化対策計画」が閣議決定されました。2030年度における温室効果ガス排出量を2013年度比で46%削減するよう、従来の目標を引き上げました。このうち、2.7%に相当する約3,800万トンのCO2を、森林による吸収や森林から産出される木材による貯蔵により確保することとしています。 「目標達成に向け、間伐やエリートツリー等を活用した再造林等の森林整備、建築物等における木材利用の拡大等に取り組み、「伐って、使って、植えて、育てる」という森林資源の循環利用を推進していきます」。
◆森林・林業基本計画
令和3年に閣議決定された新たな森林・林業基本計画については、「森林・林業・木材産業による「グリーン成長」を基本的な方針として掲げています。これを実現するために5つの柱を掲げていますが、その一つに「都市等における「第2の森林」づくり」として、都市・非住宅分野等への木材利用を位置づけています。また、林産物の供給・利用に関する目標として、現状の3,100万㎥の供給量を、2030年には約1.4倍の4,200万㎥に引き上げていきます。これに対する用途別の利用量の目標は、建築用材等を現状の1,800万㎥から2,600万㎥にする計画です。 林産物の供給および利用の確保に関する施策としては、原木の安定供給、木材産業の競争力強化、新たな木材需要の獲得で、特に都市部・非住宅分野での木材利用に注目しています」。
◆都市(まち)の木造化推進法(改正 公共建築物等木材利用促進法)
まず、平成22年に施行された公共建築物等木材利用促進法の概要についての説明がありました。「この法律は、木造率が低く、潜在的な木材需要が期待できる公共建築物において、国や地方公共団体が率先して木材利用に取り組むことが重要との考えから制定されました。これに基づき国は基本方針を示し、低層の公共建築物は原則全て木造化することとし、地方公共団体においても国の基本方針に則して取組方針を策定することとされました」。公共建築物の木造率の推移のグラフを見ながら説明があり、「平成22年度の法制定以降、徐々にではありますが、公共建築物の木造率は増加傾向にあります。低層公共建築物の木造率は令和3年度で約30%になり、農林水産省をはじめとして、各省庁や各地域で公共建築物の木造化・木質化が進められています」と、公共建築物の事例を紹介しながら説明がありました。
建築物の木材利用の可能性の拡大について、制度面と技術面の説明がありました。「制度面では、建築基準の合理化が進められています。技術面では、大規模建築物の木造化には耐火性や耐震性の課題への対応が重要であるため、強度や耐火性に優れた木材の開発なども進められています。現在では3時間耐火の性能をもつ木質耐火部材が開発され、耐火性能の観点からは階数によらず木造が可能となっています」。強度等に優れた建築用木材としては、CLT(Cross Laminated Timber:直交集成板)の活用が期待されています。政府においてCLTの普及に向けたロードマップを作成し、これに基づき対策を推進していると日向氏は語ります。
令和3年10月に施行された、改正公共建築物等木材利用促進法についての説明がありました。「この法律は、通称「都市(まち)の木造化推進法」です。主な改正内容は、法律の題名や目的等に「脱炭素社会の実現に資する」ことが明示されたことや、木材利用の促進の対象を公共建築物から建築物一般に拡大されたこと、また、政府の推進体制として農林水産大臣を本部長とする「木材利用促進本部」が設置されたことです。また、この法律の目玉は、新たに創設された「建築物木材利用促進協定制度」で、民間建築物における木材利用を促進するツールとして、建築主となる事業者等は、国または地方公共団体と本協定を締結することができます。協定は建築主との2者協定だけではなく、木材を提供する林業・木材産業や設計・施工に関わる建築事業者も加わった3者協定も可能です。協定締結のメリットとしては、社会的認知度の向上や環境意識の高い事業者として社会的評価の向上のほか、国や地方公共団体による財政的な支援を受けられる可能性が高まります」。令和5年4月末時点で、国で10件、地方公共団体で66件の実績があります。さらに、木材利用の促進に関する事例や地方組織への波及効果の事例などを見ながらの説明がありました。「セミナーを受講している皆さまへお願いがあります。建築主となる事業者の方に協定締結を働きかけていただき、協定への参画の積極的な検討をお願いします。また、地域材の利用拡大、川上から川下までが連携した木材利用の取組の促進などに、本協定制度を積極的にご活用ください」。今年の2月に、木材利用促進本部事務局に、国が実施している建築物の木造化・木質化に関する支援事業・制度等を一元的に案内する窓口「建築物の木造化・木質化支援事業コンシェルジュ」を設置したといいます。
◆ウッド・チェンジ協議会について
「ウッド・チェンジ協議会とは、民間建築物等における木材利用の促進に向けて、経済・建築・木材供給関係団体等、川上から川下までの幅広い関係者が一堂に参画する官民協議会です。これまでの成果として、施主等向けに、建築物の木造・木質化の事例、木造建築物の標準モデル、木材利用の意義・メリット等をまとめた普及資料を作成し、公表しています。これらの資料は、林野庁HP「ウッド・チェンジ協議会」ページからダウンロードいただけます」と、普及資料の紹介説明がありました。多様な木造化モデル案や木造建築のメリット、内装木質化の建築事例とその効果、川上から川下までの連携事例集など、様々な普及資料を揃えています。
◆木材利用の効果の見える化につて
「木材利用の促進を通じてカーボンニュートラルの実現に貢献するため、建築物に利用した木材に係る炭素貯蔵量を、国民や企業にとってわかりやすく表示する方法を示したガイドラインを策定しました。林野庁HPに簡単に炭素貯蔵量を算出できる計算シートを公開していますので、ご活用ください」。
ESG投資等における建築物への木材利用の評価に関する検討について説明がありました。「近年、ESG要素を重視した投資等が拡大する中、建築分野では、木材の利用による建築時のCO2排出削減や炭素の貯蔵などカーボンニュートラルへの貢献、森林資源の循環利用への寄与、空間の快適性向上といった効果に対して期待が高まっています。本事業では、このような木材利用の効果が建築分野のESG投資等において有効に評価されるよう、建築物における木材利用に係る評価項目や指標、評価の仕組みのあり方等について、有識者による検討を実施しております」。
建築分野における排出削減の重要性について、図を見ながら説明がありました。「建築分野は、世界のエネルギー起源のCO2排出量のうち約4割と、大きな割合を占めています。建築物のライフサイクルにおいて、運用段階のCO2排出は建物の省エネ対策等でその削減の取組が進む中、それ以外の段階における排出を削減していくことが重要です。その際、木材など製造時のCO2排出が比較的少ない建築資材を使用することが有効な手段の一つとなります。建築物のライフサイクルを通じた排出量(環境負荷)の把握に当たっては、ライフサイクルアセスメント(LCA:Life Cycle Assessment)の手法が使用されています。LCAの算定にあたっては、「積み上げ法」による木材製品のCO2排出量の原単位を把握することが必要です。木材に関して、積み上げ法による原単位は、丸太やCLT等では設定されていますが、製材では未整理であるため、製材の原単位の設定に向けて、有識者等の協力を得ながら調査を実施しています」。
◆情報発信の強化
「林野庁では、建築物の木造化・木質化に活用可能な補助事業・制度等の一覧表を公表しています。国の補助事業を検討する場合、ぜひご参考にしてください」。このほか、中大規模木造公共建築物事例集、地域間連携推進ツール、木造建築物に関する技術的な相談窓口、中大規模建築を木でつくるための技術・情報集約サイト「中大規模木造建築ポータルサイト」、林産物に関するマンスリーレポート「モクレポ」、木材関連事業者マッチング支援システム「もりんく」等、多岐にわたる関連情報の紹介がありました。
3.さらなるウッド・チェンジに向けて
「木材関連の最近のトピックスを紹介します。まず、合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律(クリーンウッド法)の一部を改正する法律が、令和5年4月26日に成立しました。今回の改正では、川上・水際の木材関連事業者による合法性の確認等の義務付けや、素材生産販売事業者による情報提供の義務付け等を措置しました」。次に、G7の成果についての報告がありました。「G7サミットの成果文書においては、「持続可能な森林経営と木材利用を促進することにコミットする」旨が盛り込まれ、「木材利用の促進」の重要性についてG7で明示的に共有されたところです」。続いて、長谷川町子美術館との連携について紹介がありました。「国民的キャラクターであるサザエさん一家が、森林資源の循環利用の普及啓発活動に協力してくれることとなり、農林水産大臣よりサザエさん一家に「森林の環(もりのわ)応援団」を委嘱しました。今後、サザエさん一家の協力を得つつ、森林資源の循環利用に関する一層の情報発信に取り組んでいく考えです」。
最後に、ウッド・チェンジの合言葉についての紹介がありました。「ウッド・チェンジとは、身の回りのものを木に変える、木を暮らしに取り入れる、建築物を木造化・木質化するなどの木材の利用を通じて持続可能な社会へチェンジする行動を指します。林野庁では、ウッド・チェンジの趣旨にご賛同いただける企業や団体におけるロゴマークの利用を推進しています。また、ウッド・チェンジに向けて、引き続き皆さまのご支援・ご協力をよろしくお願いいたします」と、締め括りました。