令和5年4月4日
「住宅生産行政の最近の動向」について
国土交通省住宅局 住宅生産課 木造住宅振興室長 石井 秀明 氏

資材・流通委員会(澤田知世委員長)は、令和5年度 第1回の「住まいのトレンドセミナー」を4月4日にZoomセミナーとして開催し、国土交通省の石井 秀明・木造住宅振興室長が「住宅生産行政の最近の動向」をテーマに講演しました。
石井・国土交通省木造住宅振興室長が「住宅生産行政の最近の動向」についてZOOMで講演
1.住宅・建築物への木材利用の促進
1-1現状と課題
石井室長は、まず住宅・建築物への木材利用の推進について、現状と課題を説明しました。
建築基準法の改正においても「脱炭素社会の実現」という言葉が用いられるなど、現代は社会全体がカーボンニュートラルに向けてシフトしており、木造についてもカーボンニュートラルというキーワード抜きに語れないと説明。
こうした現状における木材利用の意義として、①森林による二酸化炭素の吸収作用の保全と強化。②二酸化炭素の排出の抑制等。③山村その他の地域経済の活性化の3つが挙げられるとし、それぞれについて解説しました。
また、木造住宅は、鉄骨造や鉄筋コンクリート造の住宅に比べて炭素貯蔵量が多いほか、材料製造時の炭素排出量は少ないという特性があり、CO2抑制に大きく貢献するものだと述べました。そして、実際に全国で中高層木造建築の事例は増えつつあるとしながらも、実際のデータを見ると非住宅の分野においては木造の割合が極めて少ないと指摘。
一方、住宅分野においては、1~2階ではすでに88%と木造率が高いうえ、今後世帯数が現象していくと予想されており、木造化を進めるにも限界があると説明しました。
こうした現状においては、非住宅の分野の伸びしろが大きいととらえ、住宅産業や住宅用資材業界の企業もぜひ参入してほしいと訴えました。
次に石井室長は、木造建築業界の人材の問題に言及しました。
平成25年度の「戸建て住宅供給の大工・工務店における年間受注戸数別シェア」を見ると、年間受注戸数が50戸未満の中小工務店が約5割と最も多いが、後継者不足に悩む工務店が増えていると指摘。
また、前述した非住宅分野の木造化にこうした中小工務店の参入を期待したいが課題もあるため、今後工務店の在り方を考えていく必要があるとしました。
また、木造住宅の担い手である大工就業者数がこの20年間で半減しており、この5年間では約35万人から約30万人へと5万人も減少していると説明。これについては、プレカットの普及で手仕事が減り大工の立ち位置が変わってきたとしながらも、今後増えるであろうリフォームの現場においては経験や知識のある大工の存在が必要不可欠になるとし、大工の減少に対し大きな危機感を示しました。
1-2.木材利用促進への取組
石井室長は、2050年のカーボンニュートラルの実現に向け、今後の住宅・建築物における木材利用促進への取組について、以下の3つに分けてそれぞれ以下のように解説しました。
①規制の合理化
建築基準法における防火規制、構造規制、その他において、技術的に安全性等が確認できたものについて、順次合理化を図っている。
②住宅における木材の利用の促進
●地域型住宅グリーン化事業
地域における木造住宅の生産体制を強化し、環境負荷の低減を図るため、資材供給、設計、施工などの連携体制により、地域材を用いた省エネ性能等に優れた木造住宅(ZEH等)の整備等に対して支援を行うとともに、地域材の活用促進の支援を強化する。特に関連事業者のグループ化は、お互いの連携や理解を深めるのに有効であり、業界再編にも役立つ仕組みだと考えている。
●地域住文化加算について(R4地域型住宅グリーン化事業において拡充)
地域型住宅グリーン化事業の各グループにおいて、地方公共団体が策定した地域住文化要素基準に定められた建築技術の要素(地域住文化要素)を3つ以上取り入れた共通ルールを策定した上で、グループの工務店が、共通ルールに基づき地域住文化要素を取り入れた住宅を整備した場合に、地域住文化加算を活用可能。現在、13県が地域住文化要素基準を策定・公表済みである。
●安定的な木材確保体制整備事業(地域型住宅グリーン化事業の一部)
木材の価格高騰・需給ひっ迫を踏まえ、中小工務店、建材流通事業者、製材事業者、原木供給者など関係事業者の連携による安定的な木材確保に向けた先導的取組に対し補助金を設け促進を図る。これまで13の提案を採択し、取組に対し支援を行っている。
●大工技能者等の担い手確保・育成事業
木造住宅の担い手である大工技能者の減少・高齢化が進む中、木造住宅の生産体制の整備を図るため、民間団体等が行う大工技能者等の確保・育成の取組について、中小工務店等のDX推進による労働環境向上を図る取組を重点的に支援する。特に人材の確保については業界をあげての運動が必要である。
③先進的な技術の普及の促進等
●サステナブル建築物等先導事業(木造先導型)
木造化に係る住宅・建築物のリーディングプロジェクトを広く民間等から提案を募り、支援を行うことにより、総合的な観点からサステナブルな社会の形成を図る。
●優良木造建築物等整備推進事業
カーボンニュートラルの実現に向け、炭素貯蔵効果が期待できる木造の中高層住宅・非住宅建築物の普及に資する優良なプロジェクトに対して支援を行う。
●中大規模木造建築ポータルサイト
中大規模木造建築ポータルサイト(令和3年2月17日開設)により、中大規模木造建築に関する知識・技術の習得に役立つ情報(設計技術情報、講習会情報等)や、木造建築の実現にあたりビジネスパートナーを見つけるために役立つ情報(担い手・サプライチェーン情報)、設計者相互の情報交流の場(相談箱)等のコンテンツを提供する。
2.建築物省エネ法等の改正
次に、石井室長は建築物省エネ法等の改正について説明。2年後の省エネ基準適合の義務化が円滑に進むよう準備を進めていると述べました。いわゆる「4号特例縮小」については、省エネ基準適合の義務化に踏み切るうえで、見直さざるを得なかった措置であると説明しました。 また、義務化にあわせ、断熱等性能等級の5・6・7、また一次エネルギー消費量等級6など、住宅性能表示制度における省エネ性能に係る上位等級を創設したことについても話しました。
3.令和4年度 第2次補正予算及び令和5年度予算
続いて、予算についてです。令和3年度の補正予算で措置した「こどもみらい住宅支援事業」の後継として、「こどもエコすまい支援事業」を立ち上げ、令和4年度補正予算として1,500億円を計上。子育て世帯・若者夫婦世帯による高い省エネ性能(ZEHレベル)を有する新築住宅の取得や、住宅の省エネ改修等に対して支援することにより、子育て世帯・若者夫婦世帯等による省エネ投資の下支えを行い、2050年カーボンニュートラルの実現を図るとしました。 さらに、住宅の断熱性能向上のための先進的設備導入促進事業等(経済産業省・環境省)、高効率給湯器導入促進による家庭部門の省エネルギー推進事業費補助金(経済産業省)など、3省連携で総額3,000億円近い補助金を準備し、省エネリフォームに対する支援を強化。用意された制度をぜひ活用してほしいと話しました。
4.その他
石井室長は、住宅局関連の2つの法案について解説を行いました。
一つ目は、「空家等対策の推進に関する特別措置法」、いわゆる「空家法」の一部を改正する法律案についてです。石井室長はこの改正案について、これまで機能してきた「空家法」を、所有者の責務をより強化し、空き家の「活用拡大」、「管理の確保」、「特定空家の除却等」という3つのフェーズにおいて新たな措置を施せるようにするものと説明。「空家法」とは一見関係ないように思える住宅業界においても、リフォームの増加を考えれば、特に「活用拡大」の部分で今後関われる部分があるのではないかと話しました。
二つ目は、「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律」、いわゆる「クリーンウッド法」の改正についてです。石井室長は、カーボンニュートラルのための環境保全という文脈からも、違法伐採への関心が高まっているとし、現行で努力義務でしかない合法伐採木材等の利用の規制を強化する改正案であると説明。川上・水際の木材関連事業者による合法性の確認等や、素材生産販売業者による情報提供を義務付けするものだとしました。 なお、この法律の改正により木材の不足などが生じるのではないかという不安もあったが、調査をしてみるとすでに住宅産業では多くが合法の木材を使用しており、大きな混乱が生じることはないだろうとしました。
最後に石井室長は、「木造を促進していきたいという我々の思いを皆様方にお伝えしたかった。今後も皆様のご協力を頂戴しながら、木造振興に努めてまいります」と話し、講演を終えました。