令和4年12月6日
【第2部】「省エネ基準適合義務化に向けたSDGs取組」について
三井住友海上保険株式会社 営業推進部 法人開発ユニット
三井住友海上経営サポートセンター 上席課長 齋藤英樹 氏

資材・流通委員会(澤田知世委員長)は、令和4年度 第7回の「住まいのトレンドセミナー」を12月6日にZoomセミナーとして開催しました。今回は1部と2部に分け、第2部で三井住友海上保険株式会社 三井住友海上経営サポートセンターの上席課長 齋藤英樹氏が「省エネ基準適合義務化に向けたSDGs取組」について説明を行いました。
齋藤・三井住友海上経営サポートセンター上席課長が、「省エネ基準適合義務化に向けたSDGs取組」についてzoomで講演
齋藤上席課長は、最初にSDGsに関する外部環境の変化について説明を行いました。
齋藤上席課長は、SDGsに関する現状として、学校教育でSDGsが本格的に取り上げられ、子どもたちにとっては当然のことになりつつあること、また、2025年に開催される大阪・関西万博は別名SDGs万博といわれており、社会のSDGsに対する関心が高まっていると話しました。
また、帝国データバンクのSDGsに関する意識調査についても触れ、SDGsに積極的に取り組んでいる企業の割合が、2021年は39.7%だったものが、2022年は52.5%と12.5ポイントも増加していると説明。SDGsへの取り組みの効果としては、企業イメージの向上、従業員のモチベーションの向上、経営方針等の明確化、採用活動におけるプラスの効果などがあるという結果を紹介しました。
さらに、全国各地の自治体でSDGsの登録制度や認証制度が立ち上がっていると紹介。長野県、横浜市など、内閣府で確認が取れているだけでも50以上の自治体で登録・認証制度がスタートしており、各企業においても、地元の自治体の制度について調べることは必須であるとしました。 齋藤上席課長は、こうした状況から分かる通り、SDGsへの注目度は飛躍的に高まっており、企業においてもSDGsへの取り組みは避けられないことである。そして、今後はそれに沿った経営戦略が必要であり、場合によっては組織を変えていく必要があると強調しました。
次に齋藤上席課長は、SDGsのあらましについて解説を行いました。 それによると、SDGsは2015年に国連で採択されて始まったもので、17の国際目標とさらに細かい169のターゲットがあります。
齋藤上席課長は、17の国際目標のうち、建築・住宅業界にとくに関わりがあるものとして、「気候変動に具体的な対策を」という目標に触れ、木材の活用により脱炭素化を図ることは、大きな役割を担っていると説明。「自分や自分の会社はこうした目標と関係ないと思う方もいるかもしれませんが、決してそんなことはありません」と自社とSDGsの関わりを見つけることの重要性を説きました。
そして、自社とSDGsの関わりをつかむために有効な手段として、自社の事業や活動内容をSDGsと紐づけたり、SDGsから取り組みを紐づけるマッピングという方法を紹介。マッピングには「後付けマッピング」と「先付けマッピング」の2つの方法がありますが、齋藤上席課長は、まず「後付けマッピング」から始めてみることを推奨しました。
「後付けマッピング」とは、過去から現在までの自社の事業や活動を整理し、関連するSDGsの目標を紐づける作業で、たとえば、長期優良住宅の建設と認定の取得といった業務は「すべての人に健康と福祉を」という目標に、あるいは水回りリフォームの実施といった業務は「安全な水とトイレを世界中に」という目標に紐づけることができると話しました。
また、もうひとつの「先付けマッピング」はSDGsを道標として今後に向けた自社の事業・活動を紐づける作業で、これこそが大事であり取り組むべき作業であると齋藤上席課長は話しました。
次に法改正の概要とSDGsの関わりについてです。
法改正には、2050年のカーボンニュートラル、2030年度温室効果ガス46%削減(2013年度比)の実現に向け、エネルギー消費の約3割を占める建築物分野の省エネ対策の加速、また、木材需要の約4割を占める建築物分野での木材利用を促進し、吸収源対策の強化に寄与しなければならないという背景があります。そして、省エネ性能の底上げ・より高い省エネ性能への誘導、ストックの省エネ改修や再エネ設備の導入促進、防火規制の合理化、構造規制の合理化などによって、省エネ対策の加速と木材利用の促進を図るということです。
齋藤上席課長は、こうした法改正に「対応しなければいけない」という後ろ向きな姿勢で取り組むのではなく、前向きに取り組んでビジネスチャンスにして欲しいと提案。そのために法改正とSDGsに関わる部分において考えられるマッピングの例を目標別に挙げました。
- 目標3「すべての人に健康と福祉を」
- ・長期優良住宅の建設と認定の取得
- ・再生可能エネルギーの利用、既存建築物の断熱改修
- ・高性能住宅の建設、高断熱・高気密住宅の建設、遮熱住宅の建設
- ・室内環境の向上に資する高効率床暖房
- など。
- 目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」
- ・省エネ住宅、スマートハウス、ゼロエネルギー住宅(ZEH)の建設
- ・省エネルギー性能が高い給湯設備や照明設備の採用
- ・長期優良住宅の建設と認定の取得、高性能住宅の建設
- ・既存建築物の断熱改修、高断熱・高気密住宅の建設、遮熱住宅の建設
- など。
- 目標11「住み続けられるまちづくりを」
- ・高性能住宅の建設(高断熱、高耐久、高耐震、高気密など)
- ・長期優良住宅の建設と認定の取得
- ・住宅の長寿命化の促進
- ・住宅性能に関する各種診断や検査の実施
- など。
- 目標12「 つくる責任 つかう責任」
- ・建築材料の地産地消(国産材や地場産材の利用など)
- ・住宅の長寿命化の促進
- ・耐久性が向上する加工を施された木材の利用
- ・各種認証や認定の取得、住宅性能に関する各種診断・検査の実施
- など。
- 目標13「気候変動に具体的な対策を」
- ・ゼロエネルギー住宅(ZEH)建設
- ・高断熱や高気密住宅の建設、長期優良住宅の建設と認定の取得
- ・室内環境の向上に資する高効率床暖房、放射冷暖房システムの採用
- など。
- 目標15「陸の豊かさも守ろう」
- ・植える、育てる、収穫する、使うとうサイクルをつくり持続可能な森林経営
- など。
- 目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」
- ・お客様向け見学会などの開催(ショールーム見学会や相談会の開催など)
- ・各種団体やプロジェクトへの参画によるパートナーシップの強化
- ・自社のHPやSNSを用いたあらゆる情報の発信(自社運営イベントの告知、生活を豊かにするお得な情報の掲載など)
- など。
次に、SDGsに関わるビジネスチャンスとビジネスリスクについてです。
齋藤上席課長は、個人(消費者)の意識が変わり、ただ安ければいいというのではなく、社会課題や環境に配慮した企業の商品を選ぶという購買行動の変化が起きている。あるいは、大企業はすでにSDGsを経営に取り込んでいるだけでなく、取引先にもSDGsへの取り組みを要求し始めていると述べ、SDGsに取り組まないことは大手顧客からの受注減少や人材の流出という「ビジネスリスク」につながる。しかし、反対にSDGsに取り組めば新たな事業機会の創出、優秀・多様な人材の確保という「ビジネスチャンス」につながると話しました。
そして、SDGsへの対応でどのようなリスクがあるのか、あるいはチャンスになるのかを知るための方法として、SWOT分析という方法を紹介しました。
これは、自社の要因(内部環境)である強み(Strength)と弱み(Weakness)、そして社外の要因である機会(Opportunity)と脅威(Threat)を整理する方法で、齋藤上席課長は実際に企業で行った分析を挙げながら詳しく方法を説明。現状を「見える化」することは経営分析に対して非常に有効で、今後に向けた経営戦略のヒントが見えてきやすくなると述べました。
最後に、齋藤上席課長は企業がSDGsにどう取り組むかべきかについて、改めてポイントを述べました。
齋藤上席課長は、SDGsに取り組むうえで大切なのは、ボランティアをするという意識ではなく、ビジネスで社会貢献をしていく意識を持つことだと強調。「自社のビジネスの強み・得意分野が社会貢献につながるという紐づけをして、しっかりとPRをし、利益を出していく。それが他社との差別化にもつながります」と力強く話し、講演を終えました。