令和4年10月4日
【第1部】「木造住宅外皮の防水設計・施工指針および防水設計・施工要領(案)」概要説明
早稲田大学理工学術院 創造理工学部建築学科教授 輿石 直幸 氏

資材・流通委員会(澤田知世委員長)は、令和4年度 第5回の「住まいのトレンドセミナー」を令和4年10月4日にzoomセミナーとして開催しました。
今回は1部と2部に分け、第1部で早稲田大学理工学術院 輿石教授が「木造住宅外皮の防水設計・施工指針および防水設計・施工要領(案)」の概要説明を行いました。
早稲田大学理工学術院 輿石教授が、「木造住宅外皮の防水設計・施工指針および防水設計・施工要領(案)」概要説明をzoomで講演
輿石教授はまず初めに、2020年度末に日本建築学会から発刊した本指針・要領(案)の経緯を説明しました。
「木造住宅は、元来、構造体の軸組が屋内外に露出した真壁構法で、高温多湿な気候に適した構造でした。時が経ち、都市不燃化の観点から、外壁にセメントモルタルを塗って軸組を覆い隠す大壁構法が普及しました。当初、筋かいを配置し、壁の下地には小幅板を用いていたため、壁体内の通気性は良好でした。>その後、耐震性の向上を意図し、耐力面材として構造用合板などを用いた構法が登場し、さらに、省エネのため高気密化・高断熱化が段階的に強化されました。
その結果、壁体内に一旦、雨水が浸入するとなかなか乾燥せず、木材が腐朽しやすい多湿な環境が形成されやすくなりました。これにより、近年では築後早期に木部腐朽が生じる事例が多発しています。今日でも、戸建木造住宅では、設計技術資料や施工標準の整備が遅れています。そもそも、設計図書に材料や納まりが記載されておらず、施工管理や工事監理がなされていないことも多くあります。また、工事工程や職種が複雑に入り組み、責任の所在が曖昧な側面もあります。さらに、日常点検や補修・改修の実施を専門家ではない居住者に依存しているなど、建築生産の体制・仕組そのものにも、こうした問題の原因が潜んでいます。
このような状況を受け日本建築学会では、2011年度に「住宅外装の防水設計・施工指針検討小委員会」を立ち上げ、2020年度末に本指針・要領(案)を発刊しました。201項目の劣化リスク要因を抽出・分類し、各要因に対し想定される現象・問題点、さらにリスク回避または対応措置といった基本的劣化抑制方策を整理し、一覧表も掲載しています。また、この考えに基づき設計・施工を実施する際に、参考となる技術情報を事例シートにまとめて掲載しています」。
本指針・要領(案)は7つの章で編集されていますが、今回はセミナー内で全体把握ができるように、1章の『総則』、2章の『劣化抑制に向けた基本的方策』、7章の『劣化リスク要因一覧表』の説明がありました。
「まず本指針の位置付けですが、屋根や外壁などの外皮を対象とし、浸入雨水や外皮内部に生成した結露水などによる、構造部材、下地材などの木部の腐朽を防ぎ、木造住宅の長期使用を可能にするための防水設計・施工の基本的な考え方を示すことを目的としています。
室内への雨水の滴下・漏出、内装の汚染など、目視で確認可能な水に起因した被害に限らず、木造住宅の耐久性を損なう要因としての水・湿気にかかわる作用の全般が対象です。
適用範囲は、新築工事を対象としますが、補修・改修工事にも適用可能な内容を含んでいます。主体構造は木造を対象としますが、鉄骨造であっても層構成が同様であれば、構造体屋外側の構成部材にも適用できる内容もあります。
構造は、軸組構法と枠組壁工法を対象としますが、壁の層構成が直接関係しない内容については真壁構法にも適用することができます。主として居住専用の戸建住宅を対象としますが、住宅の形式が直接関係しない内容については長屋形式や積層型の共同住宅、店舗兼用住宅、別荘などにも適用することができます。
防水以外の性能との関係および推奨仕様は、構造耐力、防火、断熱、耐久性などの基本性能を確保することを前提としています。
また、本指針で推奨する仕様では、既存の材料規格・仕様書・基準類と同等もしくはより上位のものを想定しています」。
『劣化制御に向けた基本的方策』では、表、図、写真、フローチャートなどでわかりやすく説明がありました。
「まず、劣化制御の目的と手順ですが、木造住宅の設計、施工、使用、維持保全の各過程において、水分に起因した劣化リスク要因が多数存在します。住宅を長期間使用する間、これらのリスクの存在による偶発的な不具合や早期劣化の発生は避けられません。そのため、建設から除却までの期間、必要な点検や補修を行って性能や資産価値を維持しつつ、供用年数に対するライフサイクルコストの比を低くすることが合理的です」。
次に、フローチャートを使っての説明があり、「リスク要因分析においては、まず計画に含まれるリスク要因のうち、想定される不具合の重大性、発生確率などから、通常より高いリスクを形成すると考えられる要因の有無について検討します。高リスク要因が含まれている場合、不具合の発生リスクを低減するための代替案が採用できるかどうかを検討します。元々、高リスク形成要因が含まれない場合、および代替案の採用により回避できる場合は高リスク形成要因が含まれない計画となり、初期コストが抑制され、点検や補修を最小限にとどめることが可能になります。また、高リスク要因を残したまま計画を進める場合は、不具合を抑制するための特段の対応策を講じる必要が生じます。この対応策は初期コストの増大を招くとともに、点検および補修の頻度も増すことになります。一方、計画時にリスク要因の認識が不足し、あるいは無視して工事が行われた場合、高い確率で早期劣化が発生し、大規模な改修を行うか解体を余儀なくされる場合もあります」。
「建築基本計画におけるリスクの回避については、木造住宅の雨漏り事故や結露被害などの分析によると、不具合のあった建物では、基本計画において特定の部位や納まり形態、層構成および工事方法に関係する要因がある程度、共通的に存在することが明らかになっています」と言い、敷地、平面計画、立面・断面計画、外皮詳細計画・納まり、工事計画・方法・工程、材料・部品などそれぞれに、リスク要因、多発する問題、代替案を、表と図、事例写真などでより具体的な説明がありました。
「代替案を選択できるのは、次の二つの条件が必要となります。①当該住宅の設計与条件(敷地、床面積、所要性能、意匠、予算など)の大幅な変更を伴わない。② 発注者の合意が得られることです」。高リスク要因を回避できない場合は、劣化抑制のため有効な設計・施工上の措置を講じることになります。「有効な措置は、以下の①~⑨のいずれか、または組合せです。
①特段の高防水性・高耐久性を有する仕上材、防水工法および部材の適用、②劣化環境を改善する計画・構造措置(排水、通気、換気)、③防水施工性を確保する構法計画、④適切な工事方法の採用および適切な工事管理の実施、⑤防水施工検査および工事監理の実施、⑥劣化対策設備の設置、⑦.維持管理容易性の配慮、⑧モニタリングシステムの設置、⑨居住者への情報伝達です」。
7章の『劣化リスク要因一覧表』は、201項目のリスクに対して、リスクを高める要因やリスク回避もしくは適切に対処する方法を一覧にし、本文の詳細ページも記載したわかりやすい表です。「設計・施工に携わる人でも、木造住宅のリスクを理解していない人が多くいます。一般の人にもわかってほしいので、説明のパンフなども発行しています。水分にまつわる木造住宅の劣化に関する研究は、途に就いたばかりであり、現時点での知見には不完全な部分があります。技術の進歩とともに変化するものでもあるので、さらにバージョンアップする必要があると考えています」と、今後の抱負を語りました。