令和4年7月5日 「カーボンニュートラルに向けた住宅の高断熱化」について
旭ファイバーグラス株式会社 営業本部 営業統括グループ 専任主幹 渉外技術担当部長 布井 洋二 氏

資材・流通委員会(澤田知世委員長)は、令和4年度 第4回の「住まいのトレンドセミナー」を7月5日にzoomセミナーとして開催し、旭ファイバーグラス株式会社の布井洋二氏が「カーボンニュートラルに向けた住宅の高断熱化」をテーマに講演しました。
旭ファイバーグラス株式会社 渉外技術担当部長 布井 洋二氏が、「カーボンニュートラルに向けた住宅の高断熱化」をzoomで講演
今回布井氏は、(1)カーボンニュートラルに向けた住宅の省エネ施策、(2)省エネ基準の適合義務化、(3)誘導基準、(4)住宅の高断熱化の状況、(5)旭ファイバーグラス社の対応商品という5つの項目について講演を行いました。
(1)カーボンニュートラルに向けた住宅の省エネ施策
布井氏は最初に、住宅にかかわる省エネ対策の主な強化策を抜粋し、今後の大きな流れを説明しました。その内容は以下のようになります。
2022年
住宅性能表示制度に置ける多段階の上位等級の運用
建築物省エネ法に基づく誘導基準の引き上げ
エコまち法に基づく低炭素建築物の認定基準の見直し
フラット35S等の基準の見直し
2023年
フラット35Sにおける省エネ基準適合要件化(等級2→等級4相当)
分譲マンションに係る住宅トップランナー基準の設定
2024年
新築住宅の販売・賃貸時における省エネ性能表示の施行
2025年
住宅の省エネ基準への適合義務化
住宅トップランナー基準の見直し
遅くとも
2030年
誘導基準への適合率が8割を超えた時点で誘導基準(断熱等級5&一次エネルギー消費量等級6相当の適合義務化
新築戸建て住宅の60%に太陽光発電設備を設置
布井氏は、最も大きなトピックスは2025年の住宅の省エネ基準への適合義務化、そして2030年の誘導基準の適合義務化であるとし、続いてそれぞれの詳細について解説を行いました。
(2)省エネ基準の適合義務化
布井氏は、適合義務化について解説するにあたり、まず省エネ基準のこれまでの経緯を説明しました。
それによりますと、最初は1979年に「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」として制定され、翌1980年に基準が告示。そして1992年と1999年に改正・強化が行われ、現状の断熱基準のレベルはこの1999年の基準(平成11年度基準)のままであるといいます。これについて布井氏は「次世代省エネ基準という俗称があるが、現状ではその名にふさわしい内容とはいえない」と指摘しました。その後2013年に法改正が行われ、一次エネルギー消費基準が追加。そして、2021年には、小規模住宅・建築物について、建築士が建築主に省エネ基準適合の可否について説明することが義務付けられました。
そして、2025年には大規模、中規模、小規模すべての住宅に、省エネ基準適合が義務化されます。
現行の省エネ基準に対応する数値の目安は、6地域で天井が16㎏/㎥の密度の高性能グラスウールが155㎜厚、壁が同じく16㎏/㎥の密度の高性能グラスウールで85㎜厚、床は32㎏/㎥の密度のグラスウールが80㎜厚となります。
国交省の資料によると、現行の省エネ基準の適合率は、小規模住宅おいて87%と高くなっています。ただし、複雑な省エネ基準適合確認の計算ができず、適合できているか自身で確認できない業者も多いため、実際には断熱仕様基準レベルでの適合率は6割9割程度ではないかと布井氏は推測しているそうです。
また、布井氏は、2025年の省エネ基準への適合義務化に向けて大きなプラス要素となった「木造戸建住宅の仕様基準ガイドブック2021」を紹介しました。
省エネ基準適合確認の計算が不要となる仕様基準ですが、従来の仕様基準は使いにくい部分があったと布井氏は指摘。しかし、2021年のガイドブックでは、どこに熱抵抗いくつのものを使えばいいかが視覚的にわかりやすくなっているといいます。さらに、QRコードにより断熱建材協議会のHPを訪れると、地域別、構法別で屋根、床、天井、窓・ドアなどの項目ごとに具体的な商品名が表示され、どの商品を使えば基準に適合するかが一目でわかるようになっているそうです。
また、この仕様基準を用いれば、設計時の審査が大幅に簡易化できるというメリットもあると布井氏は述べました。
(3)誘導基準
次に布井氏は、遅くとも2030年に適合義務化となる誘導基準について解説を行いました。
誘導基準の外皮基準はZEHで求められる外皮基準で、断熱等性能等級5相当。そして、一次エネルギー消費量基準は、ZEHで求められる一次エネルギー消費量基準で、BEI0.8と同値になります。 国交省の資料によると、現状ではZEH水準の省エネ性能(BEI=0.8・強化外皮)への適合率は小規模住宅で22%、また、SIIの資料によると、2020年度の注文戸建て住宅のZEH普及率はハウスメーカー等で56.3%、全体で24%と着実に増加。さらに普及を促進するために、以下のような多くの策が講じられているといいます。
①認定低炭素建築物の基準
BEI0.9だったものが0.8に改正。断熱等級4、一次エネルギー消費量等級5だった基準が、断熱等級5、一次エネルギー消費量等級6となる。また、再生可能エネルギーを導入することが条件となる。
②長期優良住宅の認定基準
現行基準では住宅性能表示の等級4で、一次エネルギー消費量性能については条件なしだが、これが住宅性能表示の等級5、一次エネルギー消費量性能が等級6に改正される。
③フラット35S等の基準の見直し
今年10月以降申込受付分より基準が見直され、新築住宅だと金利Aプランが断熱等級5と一次エネルギー等級6。金利Bプランが断熱等級4と一次エネルギー等級6、もしくは断熱等級5と一次エネルギー消費量等級4または5が基準となる。
また、フラット35S(ZEH)が始まり、ZEH等の基準に適合する場合、フラット35の借入金利から当初5年間、年0.5%、6年目から10年目まで年0.25%引き下げられる。
④こどもみらい住宅支援事業
子育て世帯や若者夫婦世帯の住宅取得に伴う負担軽減を図るとともに、省エネ性能を有する住宅ストックの形成を図るものとしてすでにあった支援だが、追加予算案が決定し期間が延長された。
その内容は、子育て世帯・若者夫婦世帯による住宅の新築が
(1)ZEH、Nearly ZEH、ZEH Ready、ZEH Orientedに適合すれば、100万円/戸。
(2)高い省エネ性能等を有する住宅(認定長期優良住宅、認定低炭素住宅、性能向上計画認定住宅)であれば80万円/戸。
そして布井氏は最新の大きなニュースとして、誘導基準にも仕様基準ができると報告。複雑な計算が不要になるため、大幅な普及促進が期待できるうえ、容易に評価・判定ができることで、審査の負担も軽減されるだろうとしました。
(4)住宅の高断熱化の状況
布井氏は、ここで住宅の高断熱化の流れのきっかけとなったHEAT20について説明しました。
HEAT20とは「一般社団法人 20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会」のことで、2014年に省エネ基準を超える断熱水準としてG1・G2を提案。ZEHの断熱性能基準は、G1・G2レベルに近いレベルが設定されているそうです。また2018年にはさらに上位レベルのG3を提案しています。
HEATの水準は世界的に見てもかなり高く、先進的な自治体がHEATのG1・G2・G3レベルを参考に認定・助成制度を制定しています。例を挙げると、山形県の「やまがた健康住宅」、鳥取県の「とっとり健康省エネ住宅」、長野県の「信州健康ゼロエネ住宅」などがあり、ほかにも宮城や京都など多くの自治体が国に先立って高いレベルの施策を講じています。
こうしたZEHを超える高性能住宅が今後どうなっていくかということに関しては、「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」の推定によると、2025年には新築の全数が省エネ基準 BEI1.0、2030年には全数BEI0.8となるという見込みが示されています。
また、布井氏はレベルが高まっている住宅の高断熱化に対応し、多段階の断熱等性能等級が新設されると説明。今年10月1日より、断熱等性能等級5、6、7が新たに加わることになったとしました。等級5はZEH基準相当の上位等級となります。等級6と7は、5地域以外はHEAT20のG2、G3と同等で、ZEH水準を上回る等級となります。また、一次エネルギー消費量等級についてはZEH基準相当の等級6が新設されるということです。
(5)旭ファイバーグラス社の対応商品
最後に布井氏は、優れた断熱性能を誇る旭ファイバーグラス社の断熱製品を紹介しました。 同社の製品は、最新の細繊維化技術により一般的な断熱材と比べ熱伝導率が低くなっており、柱厚み105㎜における熱抵抗値を比較すると、一般のグラスウールで熱抵抗値およそ2のものが、上位製品の「アクリアα36K」だとおよそ3.3。これだと温暖地であれば等級6クラスでも付加断熱なしで実現可能なレベルだそうです。
また、商品ラインナップも豊富で、チクチク感がほとんどない壁・床・天井用断熱材「アクリアウールα」や受け金具が不要な床用断熱材「アクリアUボードピンレスα」など、要望に合わせた商品が選べるようになっているといいます。