令和4年6月7日 「林野庁における建築物での木材利用促進施策~ウッド・チェンジに向けて」について
林野庁林政部 木材利用課 木造公共建築物促進班 課長補佐 櫻井 知 氏

資材・流通委員会(澤田知世委員長)は、令和4年度 第2回の「住まいのトレンドセミナー」を令和4年6月7日にzoomセミナーとして開催し、櫻井知氏(林野庁木材利用課 課長補佐)が「林野庁における建築物での木材利用促進施策~ウッド・チェンジに向けて」についての説明を行いました。
林野庁木材利用課 櫻井課長補佐が、「林野庁における建築物での木材利用促進施策~ウッド・チェンジに向けて」をzoomで講演
櫻井氏は初めに、ウッド・チェンジについての説明をしました。「ウッド・チェンジとは、身の回りのものを木に変える、木を暮らしに取り入れる、建築物を木造化・木質化するなどの行動により、持続可能な社会へチェンジすることをさします。林野庁では令和元年からこの合言葉を呼びかけています。また、令和3年の「木材利用促進法」改正を受け、このウッド・チェンジを意図する『木づかいが 森をよくする 暮らしを変える』という標語をポスター等で展開しています。趣旨に賛同する企業や団体におけるロゴマークの利用を推進しており、今年の4月末までに143者が登録しています」。ロゴマークの利用登録は、林野庁のHPからできるといいます。
今回の説明は大きく分けて3項目あり、『木材利用の意義』、『この一年の建築物での木材利用促進に関わる主な動き』、『林野庁の関連予算』です。
『木材利用の意義』では、まず国内森林資源の現状と供給量、自給率をグラフで説明しました。「日本の森林面積は国土面積の約2/3にあたる約2,500万haで、その内約1,000万haは人工林です。森林資産は人工林を中心に蓄積が毎年約6千万㎡増加し、現在は約54億㎡、人工林の蓄積は50年前の約6倍にもなります。人工林の半分は50年を越えて成熟しているため、利用期を迎えています。この豊富な資源を有効活用するとともに、循環利用に向けて再造林を計画的に進めることが重要です」。国産材の供給量と自給率も、増加上昇傾向だと話します。
次に木材利用の公益的な意義を説明しました。「木材利用を通じて、地域経済の活性化や雇用創出、都市部と農山村地域の対流が生まれ、地方創生の実現にも寄与します。都市部では、建築物等での木材利用によって、快適な生活環境の創出、持続可能なライフスタイルの実現、グリーンな経済システムの構築等が考えられます。農山村では、持続可能な森林づくり、地域活性化や地域の魅力創出、地域資源の活用、雇用の創出等が挙げられ、木質バイオマスのエネルギーとしての活用も考えられます。さらに、木材利用は働きやすい環境づくりにも貢献します。建物に木材の内装を用いることで、心地よい・落ち着き感を高める効果の研究発表もあり、木材の利用による効果が明らかになってきました」。
木材利用の公益的な意義の一つとして、SDGsの目標の達成貢献があるといいます。また、森林・林業・木材産業におけるSDGsの目標との関係性も説明しました。「SDGsについては17の目標がありますが、森林・林業分野は目標15「陸の豊かさも守ろう」をはじめ、ほぼ全ての目標達成に貢献が可能です。木材の利用に関しては、目標12「つくる責任つかう責任」に直結するほか、建築等の利用で炭素の貯蔵につながり、他の材料に比べて製造や加工に要するエネルギーが少ない(目標7、13)という特徴があります。また、木質バイオマスとして利用することは、持続可能なエネルギー(目標7)と直結します。それにより化石燃料使用量を減らせることから、気候変動対策(目標13)に貢献します。さらに、プラスチックの代替として木材を原料とする製品づくりの技術開発が進んでおり(目標9)、これを具現化していくことは、海洋環境の保全を促進します(目標14)。木材の生産・加工・流通に関しては、持続可能な生産・消費形態の確保を謳う目標12、現在成長産業化に向けて進められている低コスト化等の技術革新は目標9のイノベーションの一部を担う働きがあります。また、従業員の定着のため適切な労働環境の整備(目標8)、女性参画の促進(目標5)が現場での労働力不足問題等を解決するために重要だと考えています」。
ビジネス面における効果について、事例を挙げて説明がありました。「木造建築物は法定耐用年数が非木造建築物よりも短いため、資金回収期間が短く、減価償却上のメリットがあります。また施設や店舗等では、ビジネス面での効果を指摘する声もあります。事例で見ると、JR秋田駅では、駅・自由通路・待合ラウンジを一体的に木質化したところ、利用者が倍増し、滞在時間も延びたといいます。クリニックでの木造化では、患者数が増えたとともに、看護師の応募数が増加。耐火木造の商業テナントビルでは、空間価値が高まり建設費に見合う賃料設定ができたという声がありました」。
2つ目の項目の『この一年の建築物での木材利用促進に関わる主な動き』では、令和3年に策定、施行された計画等に対しての説明がありました。「昨年6月に策定された『森林・林業基本計画』では、森林・林業・木材産業による『グリーン成長』を掲げ、5つの柱として、森林資源の適正な管理・利用、新しい林業に向けた取組みの展開、木材産業の国際+地場競争力の強化、都市等における第2の森林づくり、新たな山村価値の創造を挙げています。国産材の供給量に関しては、2030年に2019年実績の35%増となる42百万m3に増大させることを目標としました。」。
同年10月に策定された『地球温暖化対策計画』については、「地球温暖化防止には、CO2の排出削減とともにCO2の吸収源を確保することが重要なため、人工林を中心に削減目標達成に大きく貢献しています。ただ、人口林の高齢化によって森林吸収量は減少傾向であるため、今後は成長の旺盛な若い森林を増やす対策を強化することが必要です。我が国は、2030年において温室効果ガスを2013年度比で46%削減すること目指すと表明しており、その新たな削減目標を踏まえ森林吸収量目標は、2030年度に約3,800万CO2トン(2013年度総排出量比2.7%に相当)となります。また、伐採木材製品(HWP)は住宅資材や家具等に利用されている間は炭素を蓄積しており、最終的に廃棄されたときにHWP中の炭素を排出として計上するルールが、京都議定書第二約束期間以降導入されています。前述の約3,800万CO2トンのうち、HWPによる効果は約680万CO2トンとしています。目標達成のための取組みとしては、エントリーツリー等の成長に優れた苗木による再造林の推進による森林での炭素吸収量の確保・強化や、公共建築物や中大規模建築物等の木造化等による木材としての炭素貯蔵量の拡大、林業のイノベーション、森林づくり・木材利用推進に向けた国民運動等、様々な取組を進めています」。
同年10月には、改正『木材利用促進法』(通称『都市(まち)の木造化推進法』)の施行、『建築物等における木材の利用の促進に関する基本方針』の策定がありました。「改正の主な内容は、法律の題名・目的に『脱炭素社会の実現』を位置づけたこと、木材利用促進対象の公共建築物から建築物一般への拡大、農林水産大臣を本部長とする木材利用促進本部の設置、建築物木材利用促進協定制度の創設、『木材利用促進の日(10月8日)』『木材利用促進月間(10月)」の制定です。公共建築物における木造率は、平成22年の法制定以降徐々に上昇しており、令和2年度時点でこれまで積極的に木造化を図ってきた低層の公共建築物は29.7%、中高層を含む公共建築物全体では13.9%です。民間の建築物も含む非住宅建築物でみると、木造率は低層でも15%程度であり、今後は民間建築物を含めて木材利用を促進し、木材需要拡大していきたいと考えています」。協定制度の形態とメリットを図で示し、事例とともに説明しました。「想定される形態は、①国または地方公共団体と建築主との2者協定、②国又は地方公共団体と建築主と林業・木材産業・建設事業者等との3者協定、③都市の自治体と建築主、山村の自治体と林業・木材産業事業者等の都市と山村の連携型です。メリットとしては、HPでの公表やメディアに取り上げられること等により、当該事業者の社会的認知度の向上や環境意識の高い事業者として評価が向上することが挙げられます。また、ESG投資など新たな資金獲得につながる可能性もあります。そして、国や地方公共団体からの財政的な支援の可能性も高まります。3者協定や都市と山村の連携型では、川上から川下の連携により木材のサプライチェーン構築にも寄与します。」。5月末時点で、この協定の締結事例は、国との協定は7件、地方自治体との協定は12件となり、今後さらに活用されていくことを期待していると櫻井氏は語ります。
同年9月には『民間建築物における木材利用促進に向けた協議会』が立ち上げられました。通称『ウッド・チェンジ協議会』といわれています。「これは民間建築物等に木材が利用しやすい環境づくりに向けて、経済・建築・木材供給団体等、川上から川下までの幅広い関係者が参画する官民協議会です。立ち上げの第一回会合で挙げられた課題を踏まえて、5つの小グループ(木材利用環境整備、情報発信、低層小規模建築物、中規模ビル、高層ビル)において検討を進めてきました。今年5月の第二回会合では、小グループの成果報告の発表や情報提供、意見交換を行いました。」。各グループのメンバーや活動内容、成果、課題等の説明もありました。
次に、様々な情報提供媒体の紹介がありました。林産物に関するマンスリーレポート『モクレポ』や木材関連事業者マッチングシステム『もりんく』、中規模建築を木でつくるための技術・情報集約サイト『中大規模木造建築ポータルサイト』、林野庁HP掲載の『非住宅建築物の木造化・木質化に活用可能な補助事業・制度等一覧』等です。
最後に林野庁の関連予算についての話がありました。改正法を踏まえた建築物での更なる木材利用の促進、ウッドショックやウクライナ情勢による影響への緊急的な対応を含む、公共建築物の木造化や内装木質化、JAS構造材やCLT等の建築用木材の利用実証、国産材製品への転換促進、木材利用による効果の実証、木材加工施設の整備等に関する事業です。「今後も関係省庁と連携し予算や制度等の充実を図って参りますので、ウッド・チェンジに向けて皆様のご支援ご協力をお願いいたします」と、櫻井氏は締め括りました。