令和4年4月5日 「住宅生産行政の最近の動向 ~カーボン・ニュートラルの実現に向けて~」について
国土交通省 住宅局 住宅生産課 木造住宅振興室長 前田 亮 氏 氏
資材・流通委員会(澤田知世委員長)は、令和4年度 第1回の「住まいのトレンドセミナー」を4月5日にZoomセミナーとして開催し、国土交通省の前田亮・木造住宅振興室長が「住宅生産行政の最近の動向 ~カーボン・ニュートラルの実現に向けて~」をテーマに講演しました。
前田・国土交通省木造住宅振興室長が「住宅生産行政の最近の動向 ~カーボン・ニュートラルの実現に向けて~」を講演
最初に、前田室長は現在に至るまでのカーボン・ニュートラルの流れを振り返りながら、現在の政府方針について説明を行いました。
まずカーボン・ニュートラルの流れのきっかけとなったパリ協定についてです。パリ協定は、先進国のみならずすべての国が参加する新たな国際的な枠組みの中で2016年に発効したもので、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べ2℃より低く保ち、1.5℃に抑える努力を継続することを目標としています。
しかし、WMO(世界気象機関)とUNEP(国連環境計画)により1988年に設立されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が、パリ協定発効後の2018年10月に「1.5℃特別報告書」を提出。同報告書では、1.5℃を大きく超えないためには、2050年前後のCO2排出量が正味ゼロとなることが必要であるという見解が示されました。
こうした状況の中で、日本では2020年10月に菅前総理が「2050年にカーボン・ニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言。そして、2021年の地球温暖化対策推進本部及び米国主催気候サミットにおいては、菅前総理はそれまで2030年度に温室効果ガス排出を2013年度から26%削減することを目指すとしていた中期目標を46%削減に引き上げ、さらに50%の高みを目指すと発言しました。現在の政府の方針は、この宣言等に基づくものになっています。
続いて前田室長は、「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等」について解説しました。
政府の地球温暖化対策計画においては、原油換算で、全分野合計して6,240万klを削減するという目標が定められています。そのうち建築物分野の削減目標は889万klとなっており、これは従来の計画に159万kl上乗せされた数字になっているといいます。
この目標に向け「建築物省エネ法」における規制措置が強化され、大規模な非住宅建築物にのみ課せられていた省エネ基準の適合義務が、令和元年の法改正で中規模の非住宅建築物にも拡大。また、小規模の非住宅建築物と住宅において、建築士から建築主への説明義務が課せられました。
さらに令和4年2月1日に、国土交通省内に設置された社会資本整備審議会が国土交通大臣に対し「脱炭素社会の実現に向けた、建築物の省エネ性能の一層の向上、CO2貯蔵に寄与する建築物における木材の利用促進及び既存建築ストックの長寿命化の総合的推進に向けて」を答申しました。
この答申は、建築物の省エネ性能の一層の向上、CO2貯蔵に寄与する建築物における木材の利用促進、CO2貯蔵に寄与する既存建築ストックの長寿命化という3つの柱からなっており、2025年度以降に新築される、住宅を含む原則すべての建築物に省エネ基準への適合を義務付けることや、各種誘導基準についてZEH・ZEB基準の水準の省エネ性能に引き上げること、住宅トップランナー制度の対象に分譲マンションを追加し、住宅トップランナー基準を引き上げることなどが盛り込まれています。
次に前田室長が話したのが「木造住宅・建築物の振興・普及等について」です。前田室長は林野庁の資料を基に木材利用が地球温暖化対策においてどう位置付けられているかを解説。2030年度の森林吸収目標約3,800万C02トン(2013年度総排出量比2.7%)を達成するために、建築物における木材利用を促進し、木を「伐って、使って、植える」という循環利用を進める必要性について説明しました。
さらに、新築建築物に占める木造建築物の割合について説明し、非住宅の建築物や4階以上の中高層住宅において使用率を高めていく必要があると話しました。そして、この問題における国土交通省の取組を以下のように説明しました。
①規制の合理化
実験で得られた科学的知見等により安全性の確認等を行い、構造関係及び防火関係の規制を順次合理化する。
②先進的な技術の普及の促進等
中大規模木造建築物のプロジェクト等を支援。また、中大規模木造建築の設計に関する技術情報を集約・整理し、設計者へ一元的に提供する(ポータルサイトの開設)。
③住宅における木材の利用の推進
地域の中小工務店が資材の供給者等と協力して行う省エネ性能等に優れた木造住宅等の整備を支援。また、民間団体等が行う大工技能者等の確保・育成の取組を支援する。
前田室長は、こうした取組により平成30年に建築基準法が改正され、耐火構造とせずに、木の「あらわし」とした木造の中層建築物の建築物が可能になったと説明。中層建築物の先駆的事例として、徳島県の「awaもくよんプロジェクト」を紹介しました。このプロジェクトは、法改正により可能となった設計手法により、主要構造部を「75分間準耐火構造」とすることで、木の「あらわし」による設計を実現するものだといいます。
続いて、前田室長は「令和4年度予算・税制」について解説。住宅関連・建築物カーボン・ニュートラル総合推進事業の内容について以下のように説明しました。
LCCM住宅整備推進事業
2050年カーボン・ニュートラルの実現に向け、住宅の脱炭素化を推進するため、先導的な脱炭素化住宅であるLCCM住宅の整備に対して140万円/戸を限度に支援を行う。
地域型住宅グリーン化事業
中小工務店向けの補助制度で、資材供給、設計、施工などの連携強化により、地域材を用いて省エネ性能等に優れた木造住宅(ZEH等)の整備等に対して140万円/戸を限度に支援を行う。
長期優良住宅化リフォーム推進事業
良質な住宅ストックの形成や、子育てしやすい生活環境の整備等を図るため、既存住宅の長寿命化や省エネ化等に資する性能向上リフォームや子育て世帯向け改修等に対して100万円/戸を限度に支援を行う。
住宅エコリフォーム推進事業(補助金)、住宅・建築物省エネ改修推進事業(交付金)
地方公共団体の取組と連携して既存の住宅・建築物の省エネ改修を効果的に促進するとともに、民間の取組を促すため、住宅について高い省エネ性能への改修を行う場合は、期限を区切って国が直接支援を行うことを可能とする。
また、フラット35S(住宅金融支援機構)についても、ZEH水準のものについて金利引き下げ幅を当初5年間0.5%、6~10年目を0.25%とするなど、拡充と見直しが行われたと解説。さらに、5000万戸を超える既存住宅の省エネリフォームを推進するため、法改定を前提とし低利融資制度を創設するとも話しました。
最後は「資材・設備関連」についてです。 前田室長は、ウッドショックによる木材価格の高止まりが続いており、とくに中小工務店に対する影響が懸念されるとし、中小工務店でも活用可能な融資制度の相談窓口等の周知を行う、あるいは中小工務店が安定的な木材確保に向けた取組に対する支援の強化を行うなどの対応を行なっていると話しました。
令和3年秋口から供給遅延が発生している給湯器やトイレについては、経済産業省とも連携しながら対応しており、これにより減少してしまったリフォーム需要をいかに元に戻すかが検討課題だとしました。
そして、ウクライナ情勢など不安定要素は多い中でも、住宅供給に影響がないような形で施策を進めていきたいと話し、講演を終えました。