令和3年12月7日 「木造BIMのこれから」について
株式会社MAKE HOUSE 代表取締役社長 今吉 義隆 氏

資材・流通委員会(澤田知世委員長)は、令和3年度 第5回の「住まいのトレンドセミナー」を12月7日にZoomセミナーとして開催し、今吉 義隆 氏(株式会社MAKE HOUSE 代表取締役社長)が「木造BIMのこれから」をテーマに講演しました。
今吉・株式会社MAKE HOUSE 代表取締役社長が「木造BIMのこれから」についてZoomで講演
今吉社長は初めに、株式会社MAKE HOUSEについての紹介をしました。「株式会社MAKE HOUSEは、2015年、『木造建築をBIMでひらく・つなぐ』を目的に設立しました。構造計算からプレカットまでの一貫生産システムを行う株式会社エヌ・シー・エヌと、BIMを用いた建築情報最適化サービスを行うペーパレススタジオジャパン株式会社の合弁事業で、木造のプロフェッショナルとBIMのプロフェッショナルの互いの強みを活かした会社です。主な業務は、BIMのコンサルティング業務、プレカットCADとBIMソフト間の構造モデルコンバーターなどプレカット連動開発、お客様やコンペで見せるBIMデータ作成・CG/VRコンテンツ制作です」。
今回の説明は大きく分けて3項目あり、『プレカットと構造設計の連携の現状』、『木造の設計施工フローにおける2つの分断』、『木造BIMのこれから』です。
『プレカットと構造設計の連携の現状』は、木造住宅におけるフローと中大規模木造におけるフローの現状と問題点を指摘しました。「まず工務店や設計事務所が意匠設計をしますが、現在はJW cadやAutocadの 2次元CADを使って描いている人が多く、その図面を紙に出力してPDFで各所に送ります。その図面を見て、確認申請図書の作成、プレカット図にしてPC工場へ外注、構造計算または住宅の場合は壁量計算、積算の仕事が発生します。確認申請図書の作成は外注に発注することもあり、一度Autocadで描いたものをJW cadで書き直すということもあります。構造材を発注するためにPC工場がプレカットCADで図を描きますが、こちらも意匠設計からきた紙の図面を見て描いていく作業です。同じように積算についても、意匠設計や実施設計を見ながら手で拾っていく作業です。どの作業もデータは連動されていません」。木造住宅のフローについては、「工務店や設計事務所からプレカット工場に直接発注します。図面をプレカット工場の人が頑張ってCAD入力し、加工・出荷をするのが現状です。打合せをしながら行っていきますがデータの連動はなく、これも紙でやりとりするので不具合や問題が起こることもあります」。木造中大規模の場合は、住宅と異なり構造設計が必要です。「構造設計は、専門の事務所や構造設計担当者が行い、構造検討や構造設計のノウハウが必要になります。検討していく中でおおよその見積や確認申請を出すために構造計算をします。それらをプレカット工場でプレカットCADに入力しますが、データの連動はなく確認申請やプレカット工場でのCAD入力も紙の図面を見て手作業で入力していくのが現状です」。
『木造の設計施工フローにおける2つの分断』については、①図面情報の分断(図面・構造解析・プレカット)②生産情報の分断(生産・加工・調達)と、BIMの設計のヒントとなるSE構法での解決方法を教えていただきました。「①図面情報の分断ですが、基本設計と実施設計の間は紙ベースでしか連携していないのでここに問題が起こる場合もあります。基本設計の図面プレゼンテーション用のCADは会社によって様々で、営業も入力できるプレゼンテーション用ソフトを使うことも多くあります。そして実施設計は、プレゼンテーション用の基本設計を読み込んで作ることはあまりなく、描き直すことが多くあります。さらに確認申請用・実施図面CAD や構造計算ソフトなどの図面を描くのは別のCADが多く、それぞれのデータは連動せず、都度「紙を見て」打ち換える作業が発生するため図面通りに仕上がる確率は低くなります。②生産情報の分断は、確認申請図面の情報からプレカットCADに加工データを入力する際、手作業になります。当該プレカット工場の加工能力や各種収まりに精通していないとデータが正確に作れず、加工ミスが発生することもあります。情報がつながっていないことによる分断が、問題を引き起こす原因となります」。
「これら2つの分断は、設計におけるCADが多数存在し、それぞれのデータが独自のシステムで動いており、結局のところ紙に頼らざるをえないのが問題なので、CADの連携を強化することが急務だと思いました。しかし、実際にSE構法の事業を行った経験の中で、別の結論が見出されました」。木造建築のデータ連動には以下の3点が決定的に重要だったと、今吉社長は言います。それは、①正確なデータを担保する仕組みを作ること。②複数の設計プロセスの中で、木造ではどのプロセスが中核となるかを知ること。③連動するための構造ルールは明確化することです。
これら2つの分断における最大の問題点は、情報の信頼性・正確性がないこと。旧来の手法では、建物の性能・完成を保証するデータが作れないので、SE構法を開発する際に取り組んだのが、①全棟構造計算、②標準化された木造:システムルール、③生産CADを中心とした連携システムだったと言います。「木造2階建て500㎡未満では構造設計図書が省略されているため、構造設計フローは存在しません。したがって、構造に対する申請図書の整合性は問われない。つまり情報に信頼性がない。そこでSE構法という木造構法を開発し、全棟構造設計を行い、性能と確認申請図書の整合性の両方を保証する仕組みを構築してきました」。生産CADを中心とした連携システムの構築は、デザイン設計ではプレゼン意匠CADと構造計算/プレカットデータを連動させる。温熱計算は、プレゼン意匠CADと省エネルギー計算・一次エネルギー計算を連動。構造設計は、独自の構造計算ソフトと生産CADを連動させ、間違いのないデータを生成。・CAM・加工データは、北は北海道から南は宮崎までの全9工場で、同じソフトを使い一貫した情報でプレカット加工を行う、などが挙げられます。「建築物は最終的に現場での精度・品質を担保しなければならないため、生産CADを中心に考えることで、そのデータの信頼性を担保し連動することを可能としました。現状の生産CADを中心とした連携システムは、SE構法を前提としたシステムです。BIMを導入することにより、他工法やCLTなど他の材料を使った建築システムでも利用可能となります。今後は、建築情報のみならず、金融データや長期メンテナンスのために他の建築部材データを保管することも可能にしたいと考えています」。
『木造BIMのこれから』としては、様々な取組みをお話いただきました。まず今後注目されるのが、脱炭素社会への取組みです。「2021年COP26を受け、脱炭素社会への取組みが加速しています。木造住宅は他の住宅とは異なり、カーボンニュートラルの実現に寄与することから、今後ジャンルが広がる建築として注目されています。また、『公共建築物等木材利用促進法の改正』が2021年10月に施行されたことを受け、当社グループでは4つの取組みを進めています。
①CO₂を固定するための「木造化」
②CO₂を長く地面に固定しつづけるための「長寿命化」
③CO₂の排出量を減らすための「省エネ住宅」
④以上①~③の建築情報モデル(BIM)による管理
これからの脱炭素社会に向けては、構造計算/省エネ計算の専門知識と、BIMによるデータ管理が必須です。今後は、図面を作ることではなく情報を作ることが一番大事になります。これまでの2次元CAD時代には紙で分断されていた情報をBIMでつなげる。これから木造業界が行っていかなくてはいけないことだと考えています」。今後はより良い社会を目指し、建築業界の外部環境が激変すると言います。未来を見据えた、LCCM(ライフサイクルカーボンマイナス)住宅に関するサスティナブル建物等先導事業やこどもみらい住宅支援事業についての説明もあり、BIMによるデータ管理の必要性を強調しました。
次の取組みとしては、コロナ禍の影響で対面営業が厳しくなってきたのを受け、各社がプレゼンテーション環境を競うように強化しつつある現在において、BIM技術を活用した空間シミュレーションサービス化も開始しています。「近年のビジュアル化ソフトの進化とBIMソフトの連携の進化により、ひと昔前ではコストも時間もかかり専門のCGスタジオでしかできなかった、高画質なレンダリングが建設設計者でも可能となっています。当社では、BIMによる空間シミュレーションサービス『MAKE Viz』によって、日照シミュレーション動画による光の入り具合や標準仕様データの入力により壁や家具・備品などの素材感までがわかるサービスを提供しています。QRコードを読み込むことで360度パノラマビューの映像をスマホで見ることができ、PC用のURLリンクもあります」。
最後に、具体的な操作画面を見ながらの説明がありました。「BIMとは、一つのソフトウェアで【一気通貫】する仕組みと思われることが多いのですが、そうではありません。他の既存のソフトと連携させ、情報連携をはかっていくことが重要であり、図面ではなく【建築情報】そのもの取り扱う全体のことをBIMといいます。一例として、現在、プレカットCAD情報からBIMモデルへのコンバートを可能にしました。今後はBIMモデルと構造計算ソフトを接続するなど、双方向もしくはそれに近い形を目指しています。実装できれば、もっと木造建築の可能性が広がり、良い建築ができると考えて開発しています」と、今吉社長は締め括りました。