令和3年9月7日 「これからの森林・林業・木材産業が目指す姿
-新たな森林・林業基本計画の決定-」について 林野庁 企画課 課長補佐 宮脇 慈 氏

資材・流通委員会(澤田知世委員長)は、令和3年度 第3回の「住まいのトレンドセミナー」を9月7日にZoomセミナーとして開催し、林野庁の宮脇 慈課長補佐が「これからの森林・林業・木材産業が目指す姿」をテーマに講演しました。
宮脇・林野庁企画課 課長補佐が「これからの森林・林業・木材産業が目指す姿」を講演
宮脇課長補佐は、最初に改めて森林・林業基本計画のあらましと、森林・林業の現状について説明しました。
森林・林業基本計画とは、森林・林業基本法に基づき、我が国の森林・林業に関する政策を総合的、かつ計画的に推進するために策定するものであり、おおむね5年ごとに変更されています。
平成28年の前基本計画では、戦後造成された我が国の人工林資源が本格的な利用期を迎えたことを背景に、「林業・木材産業の成長産業化」をキーワードとして掲げ、国産材の供給対策と需要対策を推進し、その結果、国産材の供給量が順調に増加して31百万㎥となるなど、一定の成果が得られたと述べました。また、森林所有者と林業経営体を市町村がつなぐ「森林経営管理制度」や、新たな財源となる森林環境税・森林環境譲与税の創設によって、森林整備を進める環境整備が整ったことなどの紹介がありました。
しかし、一方で情勢の変化も生じていると宮脇課長補佐は説明。その代表的なものは、再造林が進んでいないことで、現在、主伐面積に対して人工造林面積は3割程度と少なく、この状態が続けば、林業適地において森林資源の循環利用が進まなくなるおそれがあるとしました。また、急激な気候変動によって山地災害が激甚化していることや、日本の人口減少や老齢化による林業従事者の減少、国内新築住宅市場の縮小、そして新型コロナウイルスによる経済社会への影響などにより、今後の木材需要が不透明なものになっていると説明しました。
こうした状況を踏まえ、新たな森林・林業基本計画は、森林・林業・木材産業の持続性を高めながら成長発展させ、人々が森林の発揮する多面的機能の恩恵を享受できるようにする「グリーン成長」をコンセプトとし、川上から川下までの施策を展開。2050年のカーボンニュートラルも見据えた、豊かな社会経済の実現を目指すものにすると述べました。そして、以下の5つを柱とし、施策に取り組むとしました。
1.森林資源の適正な管理および利用
条件不利地等で林業経営が難しい育成単層林を、針広混交林化等を通じて育成複層林に誘導する一方、林業経営に適した森林は、適正な伐採と再造林の確保を図り、育成単層林を維持。人工林資源の循環利用を推進しつつ、我が国の森林を多様で健全な姿へと誘導する。また、山地災害の激甚化、頻発化を踏まえ、森林整備・治山対策を推進する。
2.「新しい林業」に向けた取り組みの展開
森林所有者から森林経営を受託する森林組合や民間事業体などの経営体、林産複合型の経営体など、効率的・安定的な林業経営の主体の形成を進め、多様な担い手を育成。長期にわたる持続的な経営を目指す。また、生長が早く品質も高いエリートツリー等の活用による造林コストの低減や収穫期間の短縮、遠隔操作・自動操作機械等の開発・普及による林業作業の省力化・軽労化、レーザー測量やGNSSを活用した高度な森林関連情報の把握などで効率化を図り、収支のプラス転換を可能とする「新しい林業」を目指す。
3.木材産業の「国際競争力」と「地場競争力」の強化
ICT等も活用して生産・流通の各段階でコスト縮減を行い、再造林へとつなげることで、国産材製品の供給体制を整備し国際競争力を向上。地場製材工場等は、高付加価値化等により競争力を強化することを推進する。また、JAS規格については、利用実態に即した区分や基準を合理化する。
4.都市等における「第2の森林」づくり
国内新築住宅市場の縮小も見据え、中高層建築物や非住宅分野等での新たな木材需要の獲得を目指す。そのために耐火部材やCLT等の開発普及、木造建築物の設計者の育成、BIMの活用などを推進。また、木材を積極的に利用することで、都市に炭素を貯蔵し、温暖化防止に寄与する。
5.新たな山村価値の創造
山村を応援する関係人口の裾野の拡大を図り、都市部の企業・団体等による山村の経済・地域活動への参画を推進。山村経済の内発的推進や山村地域のコミュニティの活性化につなげ、山村地域の維持・発展を促す。
宮脇課長補佐は、こうした施策を行っていくとしつつ、建設業も含む森林・林業・木材産業に関係する方々に対するお願いとして、自らの短期的な利益のみを追求するのではなく、相互利益を拡大しつつ、再造林につなげるとの視点を共有し努力してもらいたいと強調しました。
続いて、宮脇課長補佐は、最近の森林・林業に関するトピックスについても解説を行いました。 まず、カーボンニュートラルに向けた取り組みについてですが、2030年度の新たな森林吸収量目標として、これまで2,780万CO2トン(2013年度総排出量比2.0%)だったものを約3,800万CO2トン(同2.7%)まで増やすと説明。「伐って、使って、植える」という資源の循環利用を進めることで、木材利用の拡大を図りつつ、成長の旺盛な若い森林を増やすことでこの達成を目指し、2050年のカーボンニュートラルの実現にも貢献するとしました。
次に、輸入木材の需給変動についてですが、アメリカの製材価格は下がってはいるとしながらも、輸入材の価格が以前の水準まで下がる保証はないとして、国産材の安定供給体制の構築を進めると説明。短期的対応として、川上から川下まで幅広く様々な関係者が木材等の需給情報の収集・共有を図る事業として、中央および全国7地区において、需給情報連絡協議会を開催しているとしました。また、中期的対応としては、ハウスメーカー等からの国産材安定需要獲得や、国産材製品の供給量増大に務めると述べました。
最後に、10月1日施行となる「公共建築物等木材利用促進法」の改正についても解説を行いました。
法律改正の主なポイントは、まず、題名を「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」から「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」に改正し、その目的に「脱炭素社会の実現に資すること」を明示したことです。そして、基本方針の対象を、公共建築物から建築物一般へと拡大しました。
また、「木材利用促進協定」制度を創設。これは、国または地方公共団体という公的セクター、建築主、林業・木材産業事業者等という3者が協定を結び、木材の安定供給・安定供給という関係性を築いたり、情報提供や技術的助言などを交わしたりできるようにする制度で、木材利用を促進する建築主等の事業者等が、国または地方公共団体とこの協定を締結し、地域材の利用やウッド・チェンジの促進に活用できるものだといいます。
宮脇課長補佐は、本セミナーに参加している方々には、ぜひこの協定を早期に締結し、国産材の安定供給・安定調達という関係性をつくりあげて活用してほしいと話し、講演を終えました。