令和3年6月7日 「林野庁の木造建築物の施策」について
林野庁 林政部 木材利用課 木造公共建築物促進班 課長補佐 櫻井 知 氏

資材・流通委員会(澤田知世委員長)は、令和3年度 第2回の「住まいのトレンドセミナー」を6月7日にZoomセミナーとして開催し、林野庁の櫻井知・林政部木材利用課課長補佐(木造公共建築物促進班)が「林野庁の木造建築物の施策」をテーマに講演しました。
櫻井・林野庁木材利用課長補佐が「林野庁の木造建築物の施策」を講演
櫻井課長補佐は、まず最初に日本の森林資源の現状について解説しました。国土の約7割が森林と恵まれた環境にある日本では、1966年に19億㎥だった森林蓄積(森林を構成する幹の体積)が、2017年には52億㎥と大幅に増加。特に人工林は5倍も増加しており、その面積の約半数が51~55年生となる主伐期を迎えつつあると説明しました。そして、このように充実した森林資源を利用する意義として、以下の4点を挙げました。
1.地球温暖化対策への貢献
木造建築物は第2の森林ともいわれ、一定期間炭素を固定する。また、木材は他の資材と比べ製造時のエネルギー消費も少なく、CO2削減目標の達成に大いに役立つ。
2.社会的課題解決に向けた効果
自然資本と生物圏の充実が必要とされるSDGsにおいては、森林の存在自体が大切であり、さらに森林資源を利用することがSDGsの目標達成に重要な役割を果たす。また、地域の活性化や雇用創出など、地方創生の実現に寄与する。
3.with/afterコロナの「新たな日常」への貢献
コロナ禍を契機にテレワークの定着をはじめ、働き方や暮らし方が見直されるなか、木材を使うことで親和性の高い空間がつくれ「新たな日常」に貢献できる。
4.ビジネス面における効果
建築物において、非木造の工法と比べ木造は構法等の工夫によっては低コスト・短工期。また、店舗やオフィスに木材を使用することで、付加価値を加えやすい。 そして、地球温暖化対策についてはより詳しく解説。森林はCO2を吸収し固定するとともに、木材として利用することで長期間のCO2の貯蔵が可能となると説明し、2050年のカーボンニュートラル実現に向けて森林と木材の貢献度は高いとしました。しかし、森林は高齢級化が進むにつれ、CO2の吸収量が減少傾向になることを指摘。日本の人工林は高齢級化が進んでいるため、「伐って、使って、植える」という資源の循環利用を進めて人工林の若返りを図るとともに、木材利用を拡大することが重要であると強調しました。
続けて櫻井課長補佐は、木質化が人に与えるさまざまな効果について話しました。多くの研究や調査報告により、木が人に対し心理的・生理的に好影響を与えることが科学的にも実証されつつあるとし、内装木質化によって、集中力が上がる、モチベーションや積極性が高まる、リラックス効果がある、愛着心が増すといった効果が期待できると述べました。
次に、国内における建築物の木質化の現状を説明。一般的な低層住宅において木造が占める割合は高いが、今後住宅の着工数は減少する見込みであり、中高層住宅や住宅以外の建築物での木材利用をさらに促進することが重要課題であるとしました。また、公共建築物に関しては、2010年の「公共建築物等木材利用促進法」の成立以降、木造率が上昇しており、2010年には17.9%だった低層の公共建築物の木造率が、2019年には28.5%にまで高まったといいます。
また、木材利用の促進のために行っている支援策も紹介しました。現在、ハード、ソフト両面からいくつもの支援が行われていることを、実例を挙げながら説明。そのひとつで昨年度新たに始まった事業として、内装木質化等促進のための環境整備に向けた取組支援事業も紹介しました。これは、店舗やオフィスなどの民間の非住宅建築物等を木質化し、その効果を検証する企業・団体等を公募。利用者数の変化など経済面への効果や利用者の心理面・身体面などへの効果といった実証事業の成果を公開するものです。
続いて、櫻井課長補佐は最近の木材に関する世界の動向と、国内で生じている問題への対応について解説しました。まず、米国に関しては、コロナ禍による住宅需要の増加と住宅ローンの低金利により、住宅着工戸数が増加し、木材価格が高騰。北米にコンテナが滞留しているためコンテナ不足が発生し、海上輸送運賃が値上がりするという現象も生じたと説明。また、中国では木材需要の増加が止まらず、いまも世界各地から木材を買い集めている状況だそうです。
そして、こうした世界の現状により、国内においては輸入材の不足感や価格上昇といった問題が生じていると指摘。また、外材の代替として国産材の引き合いも強くなっているため、国内の加工工場も既に稼働率を上げて対応しているそうです。林野庁としては、正確な情報を把握して需給の変動に適切に対応していくことが重要だと考えており、中央や全国7ブロックでの地区別の協議会を開催し、川上から川下までの関係者間で情報共有を図っているそうです。
次に、制定からおよそ10年が経過した、公共建築物等木材利用促進法の改正の動きについてです。 今回の法改正の目的は、脱炭素社会の実現に向けて森林や木材に対する国民の期待が高まっていることや、この10年における耐震性能、耐火性能の技術革新によって、建物の木材利用の可能性がさらに広まっていることを踏まえ、建築物全体について木材利用の促進を図るためであると櫻井課長補佐は説明。具体的な変更点としては、脱炭素社会の実現に資するということを題名など法律内に位置づけることや、対象を公共建築物から民間建築物を含めた建築物全体へと拡大すること、それを促進するための協定制度の創設、農林水産大臣を本部長とする木材利用促進本部の設置が挙げられるそうです。また、10月8日を木材利用促進の日、10月を木材利用促進月間とすることが法定化されるとのことです。(注:この改正法案は、本セミナー開催後に、国会において成立し、公布されました。現在、今年10月1日の施行に向けて制度等の検討を進めているそうです。)