令和3年1月12日 「建物の防水」について 千葉工業大学 創造工学部 建築学科 石原 沙織 氏

資材・流通委員会(澤田知世委員長)は、令和2年度 第4回の「住まいのトレンドセミナー」を令和3年1月12日にzoomセミナーとして開催し、石原 沙織 氏(千葉工業大学 創造工学部 建築学科 准教授 )が「建物の防水」について、メンブレン防水を中心とし、防水の必要性と役割、各種実験結果等の説明を行いました。
石原・千葉工業大学准教授が、メンブレン防水を中心とした「建物の防水」についてzoomで講演
石原准教授は、建築の防水について3つの項目に分けて説明しました。①防水の必要性と本当の役割②メンブレン防水の種類③防水層の性能と性能評価試験項目です。
初めに『①防水の必要性と本当の役割』では、世界の年降水量を地図で示し、日本の降水量は世界の中でも多いと指摘。雨が少ない国では平らな屋根が多く材料は土や日干し煉瓦もあるが、それでもスコールがある国ではドレーンを設けていると、マリ共和国の写真を見ながら説明しました。 さらに、日本の防雨の知恵を、現存する日本最古の庶民のための学校で木造築350年以上になる岡山の閑谷学校を例に説明しました。防雨のためには勾配屋根、深い軒の出、高い床が重要となりますが、閑谷学校の場合は、三重の屋根構造で建物を雨から守っています。野地板の上に土肥葺きをして一番下の屋根を作り、その上に流し板を並べて二番目の屋根を作り、そして瓦の土台となる目板の上に備前焼の瓦を葺いていますが、軒の部分には流し板の先端に備前焼の陶管が設置されており、仮に瓦が割れたとしても陶管から排水し、下層への水の浸入を防ぐ構造となっています。火灯窓を張り巡らした講堂は、現在も論語の学習体験できます。
さらにスカイツリーから見た東京の写真を示し、現代の大きな建物の屋根は平らが多いと説明。その理由は、「排水の問題を除けば、平面図計画が楽になり、屋上を利用できますし、材料の使用量が少なく施工も楽になります」。降水量の多い日本で平らな屋根を建築するには、雨水が浸透しない膜が必要となり、これがメンブレン防水の技術となります。
「防水というと、一般の人は漏水してこない快適な居住空間の確保と考えると思いますが、それよりも重要な防水の役割は建物の保護にあります。なぜならば、多くの建築材料は水が苦手だからです」と、防水の重要性を指摘しました。材料によって異なりますが、多くの場合、水は材料自体の劣化を招くからです。
平らな屋根がコンクリートの場合を例に説明。「欠陥のないコンクリートであれば、コンクリート自体である程度水を食い止められます。しかしコンクリートは、乾燥収縮、凍害、地震や不同沈下等の様々な理由によりひび割れが起こりますし、コールドジョイントやセパレータ周りは水密性が低下しやすくなります」と、様々な試験方法とその試験結果を示して説明しました。「例えばウレタンゴム系塗膜防水層の場合、十分な厚さがあれば、下地にひび割れがあっても、防水層で水分や炭酸ガスを遮断することができ、中性化しにくくなるという実験結果もあります。この様に、単に水を防ぐだけではなく、中性化、塩害、凍害からも建物を守る役割を果たします。防水の役割は雨漏れ防止だけではなく、建物を保護し長寿命化を担保する重要な役割を担っているのです」と強調しました。
次に、『②メンブレン防水』の基本的なことについて、屋根の構成、防水層の作り方、メンブレン防水を含む防水の種類、2005年から2019年までの防水材料毎の施工面積の推移、各防水材料の工法と特長を説明しました。「メンブレン防水材料は、塗膜防水、シート防水、アスファルト防水、FRP防水、改質アスファルト防水等があります。塗膜防水は近年施工面積を増やしている防水材で、シート防水とトップを二分しています。木造住宅の防水としてよく使われるのはFRP防水ですが、これは繊維強化プラスチック(Fiberglass Reinforced Plastics)の略称で、ガラス繊維等の強化材(補強材)で補強されたプラスチックです。強度・耐水性・成型性が優れていることから、駐車場や上下水道・防食などにも用いられていますが、60%以上は木造建築に用いられています」。木造の動きに対して安全性が高い、強度・耐薬品性が高い、材料の硬化性が速く1日で仕上げられるという特長を説明しました。
『③防水層の要求性能と性能評価試験』については、「防水層の基本的な要求性能は、水を浸透させない皮膜であることと、長持ちすることが挙げられます。防水層を劣化させる要因は、気温、雨水、紫外線、不連続な下地部分のムーブメントと疲労があります」。その様々な要因に対して行った、性能評価試験、耐久性能試験の内容と試験結果の説明がありました。「これらの試験はそれぞれ一つの要因に対応するものです。ただ実際の環境ではこれらの要因が複合的に作用します。そのため、いくつかの要因を組み合わせた試験で耐久性を検証することが必要だと考えます」と、今後の課題を語りました。
まとめとして石原准教授は、「防水は、建物を長持ちさせる大きな役割を担っているわけですが、特に屋外で使用される防水材は、かなり過酷な環境に曝されています。水を防ぎ建物を守り続けるためには、適切な施工とメンテナンスが必要不可欠です」と語りました。また、メンブレン防水分野の現況については、「メンブレン防水は、材料としてはかなり成熟してきていると思います。そのため新しい材料開発というよりも、特に近年は過去に起きなかった様なひどい災害が起きますし、職人さん不足の問題もありますので、より安全により確実に良い状態を維持するための観点が大切になると言えます」と説明。さらに、欧州と日本の違いについても触れました。「欧州の建物の耐久性が高いのは、そもそも建物を長く使うことに価値を見出すという思想が根付いているからだと思います。もちろん雨量が少なくて乾燥していて、材料に対する環境負荷が日本より小さいということもありますが、だからと言って防水の材料や工法に大きな違いがあるわけではありません。欧州では建物の維持管理に対する意識が、建物の使用者レベルまで深く浸透しているのだと思います。日本ももっと、維持管理を重視し、一つの建物を大切に長く使用するという意識改革が、建物の使用者レベルでもできる様になると良いと思います」と強調しました。