令和2年9月8日 「科学的に見た木造の良さ~木材・木質空間が人に与える影響」について 東京大学大学院 農学科学研究科 准教授 恒次 祐子 氏

資材・流通委員会(澤田知世委員長)は、令和2年度 第2回の「住まいのトレンドセミナー 第2部」を9月8日に開催し、木の良さを研究している東京大学大学院 恒次祐子・農学科学研究科准教授が、「科学的に見た木造の良さ~木材・木質空間が人に与える影響」について講演しました。恒次・准教授は、ウッド・チェンジ・ネットワークで設置された木質化WGの主査を務めており、「客観性をもって木の良さを消費者に証明したい」ということから各種実験を通じて実証活動を行っています。
恒次・東京大学大学院准教授が「科学的に見た木造の良さ」を講演、各種実験で木のリラックス効果向上を実証
恒次准教授は、木(スギ)の香りの影響についてでは、20歳代の14人にスギの香りを嗅いでもらい、血圧や脳活動を測定しました。その結果、香りを嗅いでいる90秒間のうちに最高血圧が下がり脳活動を示すヘモグロビン濃度も徐々に下がってリラックスしている結果が出ました。木の香りがパソコン作業に与える影響も測定しました。測定では無臭の状態でパソコン作業を行った場合と、針葉樹に含まれる抽出成分のリモネンや、マツなどに含まれる抽出成分のα-ピネンの香りを嗅いで作業行なった場合では、無臭の場合で心拍数が多くなり、恒次・准教授は「木の持つ抽出成分を含む匂いが身体のストレスを少なくする可能性があります」と述べました。
金属と木材に接触した時の収縮期血圧(変化量)の違いを測定した実験結果では、金属やプラスチックに触れた時の収縮期血圧は高く、檜やミズナラと接触した場合では収縮期血圧は半分以下と低く、ストレスが小さいことも実証しました。檜のボールを満たしたボールプールに小学生に入ってもらい、交感神経活動と副交感神経活動を連続的に測定しました。檜のボールプールに入る前と比べ、児童の交感神経系活動は下降し、逆に副交感神経系活動は上昇して、身体がリラックスしていることが分かりました。
木の内装材を用いた空間が生体に与える影響も実験しました。木質居室とクロス貼りの居室に20歳代の男性19人に3分間入ってもらい、脈拍数や副交感神経系活動がどのように変化するかを測定したものです。その結果、脈拍数は木質居室がクロス貼り居室よりも約7倍も低く安定し、副交感神経系活動では木質居室の方がクロス貼り居室よりも約2倍高くリラックスしていることを証明しました。その際の室内の空気(室内空気中濃度)を調べると、スギ居室ではα-ピネン、β-ピネン、D-リモネンといった抽出成分がクロス貼り居室よりも多く含まれていることが分かりました。
恒次・准教授は「木造校舎での教師の疲労感はRC校舎よりも少なく、スギの机で学ぶ子どもたちの免疫力は、金属机で学ぶ子どもたちよりも高いという調査結果があります。木材の匂いや手触り、見た目や木材に囲まれた空間にはリラックス効果があると言えます。血圧や脈拍数の低下、副交感神経系活動の上昇という測定結果からそのようなことが言えます。また、最近の結果から免疫上昇効果もあると言われ、今後もデータを蓄積する必要があると考えています」と述べました。