令和2年7月8日 「トラック運送業の現状と課題」について 国土交通省自動車局 貨物課長 伊地知 英己 氏

資材・流通委員会(澤田知世委員長)は、令和2年度第1回の「住まいのトレンドセミナー」を7月8日に開催し、国土交通省自動車局の伊地知英己・貨物課長を講師に招き、「トラック運送業の現状と課題」についてセミナーを開催しました。働き方改革の一環でトラック運送業界でも時間外労働の見直しが進んでおり、貨物自動車運送事業法の一部改正も加わり、資材メーカーなどでは物流体制の見直しが急務となっています。伊地知講師は、「働き方改革によってトラック運転者の時間外労働について罰則付き上限規制が導入されることになり、このままだと建築資材の物流が停滞する恐れがある」と警鐘し、早急に物流体制を見直す必要性を強調しました。
伊地知・国交省自動車局貨物課長がトラックドライバーの過酷な労働条件改善に向け、荷主側の対応など説明
伊地知講師は初めにトラック運送業の現状について触れ、トラックドライバーの労働時間は全職種平均より約2割長く、その割に年間賃金は全産業平均よりも約1割から2割低いのが現状で、高齢化が進展していると説明しました。 平成30年7月に公布された「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」では、トラックドライバーの時間外労働規制が見直され、5年後(令和6年4月1日)に年間960時間(月平均80時間以内)の上限規制が適用されることになっています。この上限規制の適用によって、伊地知講師は「運ばれない荷物が増加するとともに、労働条件の悪い荷主にはドライバーが集まらない恐れが出てくる」と強調しました。
伊地知講師はトラックドライバーの過酷な労働状況について、「通常なら約30分で終わる荷卸しのための荷待ち時間が7時間10分にもなり、さらに受領書を貰うのに2時間半も待ち、合計で9時間40分もの拘束時間が発生した。この荷待ちの時間の対価はドライバーに支払われていない」と紹介しました。このような労働状況に対して、政府では2018年の関係省庁連絡会議で①長時間労働是正の環境整備、②長時間労働是正のためのインセンティブ・抑止力の強化――を骨子とした「自動車運送事業の働き方改革の実現に向けた政府行動計画」を閣議決定し、政府を挙げて労働生産性の向上や多様な人材の確保・育成、取引環境の適正化などに取り組んでいます。
荷待ち時間解消に向け情報共有が必要納品時間の見直しや車上渡しを原則に
建設資材などの物流では、①建材メーカーなどから工事現場への配送で荷待ち時間が発生する、②建材メーカーや商社・特約店・加工工場などで発注期限が守られていない場合がある、③商社・特約店への配送でドライバーが附帯作業を強いられるケースが見られる、④問屋やメーカー倉庫への配送では検品・仕分け作業に時間がかかる――といった、建設業界ならではの課題が指摘されています。
国は住宅需要者を支援する形で住宅供給者の事業環境の改善を図り、さまざまな支援策を打ち出しています。
このような課題に対して、国交省では「荷主と運送事業者の協力による取引環境と長時間労働の改善に向けたガイドライン」を策定しています。伊地知講師は「工事現場との連携による荷待ち時間の削減が重要になり、搬出入・揚重管理システムの導入や到着予定時間及び荷卸しの可否の事前確認、納品時間帯の見直し、車両集中の分散化などの導入が欠かせない」と強調しました。
発注期限の遵守についてはクラウドを活用し車両側と荷主側の円滑な情報共有の推進が必要で、附帯作業の解消については「納品条件の基本を車上渡しとし、着荷主側で専門の荷役作業員を配置する、それでもドライバーが附帯作業を実施する場合は書面で料金化するようルール化すること」と述べました。また、検品・仕分け作業の時間短縮では、「建材製造業や卸、ユーザーが一貫して活用できる仕様等が標準化されたコード体系を導入するとともに、検品作業などは目視から電子化することが重要。専用パレットの活用や出荷効率を踏まえた生産方式の構築なども建設資材の物流に効果を上げている」と強調しました。
伊地知講師はこのような改善を行うことで荷待ち時間が削減された事例を紹介し、「荷卸し時間の事前指定で平均60分だった指定前の荷待ち時間が、平均で25分に短縮することができた」と述べました。
荷主の配慮義務も新設、改善できなければ勧告や社名公表も
引き続いて伊地知講師は2019年に施行された改正貨物自動車運送事業法を説明しました。改正貨物自動車運送事業法では荷主への配慮義務が新設されており、勧告制度が拡充されています。
伊地知講師によると、荷さばき場において荷主都合による長時間の荷待ち時間を恒常的に発生させるような行為のほか、過積載運行を招く恐れがある行為として積み込み直前に貨物量を増やすように指示する行為、最高速度違反を招く恐れのある行為として適切な運行では間に合わない到着時間を指定するような行為、異常気象など安全運行の確保が困難な状況で運行を強要するような行為――などについて規制が適正化されています。
同法では違反原因行為を荷主が行っている疑いがあると認められる場合や荷主が違反原因行為をしていることを疑う相当な理由がある場合に、国交大臣が働き掛けや要請を行えることになっています。それでも改善されない場合などは勧告と社名の公表のほか、荷主の行為が独禁法違反の疑いがある場合には公正取引委員会に通知することができるようになっており、伊地知講師は「トラック輸送を持続するには厳しい現状で、荷主側にも協力をお願いしたい」と要請しました。