日本木造住宅産業協会

(一社)日本木造住宅産業協会(略称/木住協)は、木造軸組工法住宅等の普及と健全な発展に寄与することを目的とした法人です。

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住まいの情報

第二回 「一条ハイブリッド免震構法」(一条工務店)

一条ハイブリッド免震構法のシステム40万人を超す死傷者を出した中国の四川大地震は記憶に新しいところ。地震多発国ニッポンでは、地震から人命と家財を守ることが最低限必要になり、その有効な手段として「免震住宅」が脚光を浴びている。株式会社一条工務店(本社=東京都江東区、1種B会員、山本庄一社長)が開発した「一条ハイブリッド免震構法」は、これまでに全国各地で2700棟に採用され、免震構法を採用している住宅メーカーの中でもダントツの多さを誇っている。「一条ハイブリッド免震構法」に焦点をあて、システムの特徴や開発秘話を探った。

その瞬間、室内全体が大きくグラッと揺れた。立ち上がれないほどの強い横揺れだった。一瞬、パニック状態に襲われた。「地震が発生した時にはまず最初に火の始末を」などと聴かされていたが、頭の中が真っ白になり、何も出来ない。ただ、床に手をついて踏ん張っているだけだった。静岡県浜松市南区の一条工務店の浜松本社。本社社屋と工場棟が建ち並ぶ一角に起振装置があり、免震装置を取り付けていない住宅モデルでの模擬地震体験である。振動スイッチを入れた特建設計部の平野茂次長(49歳)が、こちらの慌て振りをモデルの外から見ていた。今度は隣に設置された「一条ハイブリッド免震構法」を施したモデルに移り、同じ阪神・淡路大震災の818ガルという地震力で再び実験してもらった。事前の心構えができていたためもあるが、今度はゆっくりと揺れるだけで恐怖感はない。机の上に置かれたコップは倒れず、中に入ったワインも僅かに波打つ程度だ。室内の備品も落ちたりすることはなかった。

地震力を柳に風と受け流す

300回以上も実大実験を実施して高い免震性を実証開発のきっかけは阪神大震災 居室の二次被害防止に効果

一条工務店グループが一条ハイブリッド免震構法の開発に着手したきっかけは、1995年1月に発生し、6000人強の尊い人命が失われ、負傷者約44000人、全半壊24万9000棟という大きな被害を出した阪神・淡路大震災。当初から開発に携わった平野次長は、震災の発生と同時に現地を視察した。「当時、当社が施工した住宅は震災地域にも数多くありましたが、幸いなことに全半壊はゼロでした。しかし、81年の新耐震基準が施行される以前の住宅は、軒並み倒壊しており、その惨状に目を見張りました」と語る。悲惨な現地を見て施主宅に震災当時の状況を調べに行った平野次長は、多くのユーザーから揺れによる恐怖の体験談を聞かされた。平野次長は「何とかしないといけない」と思うと同時に、現地を歩き回って免震装置が取り付けられていた郵政省のビルや大手ゼネコン企業などの社屋が、大きな被害を受けずに、微動だにしていないことも目にした。

「これだ!と思った」と平野次長。一条工務店グループが免震住宅の開発を本格化したのは、阪神・淡路大震災の翌年暮れ。地震国ニッポンでは、いつ、どこで大地震が発生するか分からない。しかも、一条工務店の創業の地は、中央防災会議が9200人を超す死者が出ると推測している「東海地震」の発生が予想される地域である。免震住宅は地震による激しい揺れを特殊な装置を用いて吸収し、ゆっくりと揺らせることによって地震被害を免れるというもの。地震力を柳に風と受け流すのが特徴だ。このため住宅本体に損傷を与えることがなく、家具の転倒・落下による二次被害を防ぎ、人命や家財を保護することができる。耐震構造は建物が大きく揺れても建物自体は壊れることはないが、家具などが倒れるという危険性が残る。免震住宅は建物と地盤が共振せず、建物内部も安全で、階層の揺れの差もない。

免震構法に取り付けられているスライダー試行錯誤の連続だった開発 積層ゴム、スライダーを採用

開発を本格化したが、当時の免震装置はベアリング支承で住宅を支え、積層ゴムによって揺れを少なくするというシステムだった。ベアリング支承の採用は施工などに高い精度が要求され、コストも一式で1300万円程度と高くなる。錆が発生してメンテナンスも困難だった。オイルダンパーを活用して揺れを戻すシステムもあるが、約10年間で交換する必要があった。開発陣は「これまでの方法では戸建て住宅に採用することは無理」と結論を出した。そんな時に出会ったのがブリヂストン社だった。両社で共同開発に着手した。平野次長は「試行錯誤の連続でした。コストをかければ当然のこととして良いものができますが、それでは一般の戸建て住宅には普及しません。その折り合いが大変でした。何度となく実験を繰り返し、難関にトライしました」と苦労を語る。

そんな苦労を続けて開発したのが「一条ハイブリッド免震構法」。技術面とコスト面の問題を解決するために、「積層ゴム」と「スライダー」を組み合わせた。2つの組み合わせはわが国で初めて。専用に開発された積層ゴムは戸建て住宅の特別仕様で、超低弾性ゴムが採用された。内部は超低弾性ゴムと鋼板が何層も重ねられており、水平方向の力に大きく変形する性能を持っている。地震時にゆっくりとした周期で建物を振動させ、地震が収まった後には建物を元の位置に引き戻す役割がある。スライダーはステンレス板に特殊コーティングした摺動子(しゅうどうし)と滑り板を用いた支持面で低摩擦化を実現した。同時に住宅の重量を支える。コーティングはテフロン系ポリマーアロイ処理されており、360度自由な方向に滑らせることによって地震力を吸収する仕組みである。

木造住宅の場合、横揺れへの対応が重要になる。一条ハイブリッド免震構法では、積層ゴムが変形することによって地震の水平力を弱めて元の位置に復元する。さらにスライダーが地震の力を建物に伝わるのを防ぎ、木造住宅への地震力を減退するというシステムだ。このシステムによって、地震の衝撃を3分の1から4分の1に軽減することができた。阪神・淡路大震災の時の地震加速度は818ガル、大正12年に発生した関東大震災の東京の揺れは360ガルだった。360ガルになると立っていることが困難になり、400ガル以上では自分の意志ではまったく行動できず、建物によっては倒壊が始まる。一条ハイブリッド免震構法は、阪神・淡路大震災時の地震加速度を、行動にやや支障を感じる程度の200ガルまで低減することができる。

業界1位の2700棟が搭載

ベタ基礎の上に組み立てられた免震層300回もの実大実験を実施 免震構造学会の特別賞を受賞

苦労を重ねて、一条工務店が免震住宅を発表したのが98年9月。阪神・淡路大震災の発生から3年半の歳月が過ぎていた。しかし、普及にはまだまだ難関が待ちかまえていた。最大の壁は行政への手続き問題だった。当時、免震住宅を建設するには、1棟ごとに個別評定を受け、個別の大臣認定を取得する方法しかなかった。評定には膨大な資料の作成が必要で、申請手続きも煩雑、多額の費用もかかる。こうした難点を乗り越え、2000年4月に当時の建設大臣から一般認定を取得する。第1号の取得だった。大臣認定の取得によって、一般住宅と同様な手続きで免震住宅の建築が可能になり、普及に弾みがつくことになった。その後、新たな告示が定められて、大臣認定を取得しなくとも建築できるように改められたが、この告示では軟弱地盤や液状化地盤の地域では建築することができないなど、数々の制限が残っていた。このため、一条工務店では02年に再度、一般認定を取得し、軟弱地盤などの地域でも建築を可能とした。多くの住宅メーカーは定められた告示に準拠して免震住宅を建築しており、いずれも軟弱地盤などでは建築できない。

一条工務店では再度の認定取得で軟弱地盤地域などでも建設することができ、優位性を保っている。業界トップの採用率の高さには、こうした地道な企業努力がある。システムの安全性と信頼性を確認するため、実際に販売している木造軸組住宅を実験装置の上に建設し、さまざまな地震波を与えて実大実験を実施した。その回数は300回以上にもおよぶ。いずれも確かな性能と安全性を確認している。一条ハイブリッド免震構法ではベタ基礎の上にスライダーと積層ゴムを設置した免震層を組み立て、その上に水平ブレースを組み込んだ鉄骨土台を取り付ける。さらにその上に木造軸組住宅を建設する。耐用年数は60年、原則としてメンテナンスフリーである。免震構法の設計にあたっては、地震発生時に地震力を弱めるために家屋が最長35センチほど水平方向に動く。このため、これを見込んだ設計法が必要になる。家屋と塀などに挟まれないように、水平移動の35センチと人が挟まれても安全なように30センチの防止距離を確保し、合計65センチの安全距離を確保する必要がある。

免震モデルと非免震モデルではこんなに違う。地震力で非免震モデルでは食品などが散雑してしまう。これ以外は住宅設計に基本的な制限はない。平野次長は「装置本体だけでなく、周辺装備も初めから開発しました。施工作業の手順や維持管理、コストまで。長期間にわたって確実に作動する必要があり、苦心しました」と語る。性能を有効に発揮させるには地盤情報や地盤調査が不可欠になる。一条工務店では施工にあたって地盤調査を義務付けている。免震装置の設置費用は低コストに抑えられており、建築面積3.3㎥あたり13.65万円と設定している。総二階タイプで延べ床面積が132㎥の住宅なら、総額273万円(基礎工事費や地盤判定費用、構造計算費用などを含む)になる。発売後の反響はもの凄かった。02年には住宅メーカーで初めて(社)日本免震構造協会から日本免震構造協会賞(技術賞)を受賞した。03年11月には免震構法搭載住宅が累計で1000棟を突破する。その後、06年6月には2000棟を突破、今年2月時点では2700棟と、業界でも圧倒的なシェアを占めるまでになっている。

技術開発が社業の発展に貢献

定期的に行っている住まいの体験会でユーザーに揺れの体験を福岡県沖地震で安全性確認 見込み客に地震の揺れ体験

発売後の05年3月、福岡県沖でマグニチュード7.0という福岡県西方沖地震が発生した。福岡市などでは震度6弱を記録し、多くの全半壊被害をもたらした。一条工務店では調査チームを現地に派遣、施工した免震住宅を調べた。その結果、免震装置が正常に作動したことを確認し、家具などの転倒・落下もなく、実際の地震で優れた安全性を発揮した。平野次長は「システムを採用していただいたユーザーから様々な声を頂いています。福岡県の方は、福岡県西方沖地震の際に『震度3程度かなと思ってテレビをつけたら、震度6というので初めて驚きました』といっておられました。また、ある方は『昔から怖いものに地震、雷、火事、親父と言われてきましたが、免震住宅にしたことで、怖いものがなくなりました』と笑っていました。私自身は、産んだ子供がいつまでも心配なように、地震が発生するとすぐに現地に駆け付けるという変な癖がついてしまいました」と苦笑している。

一条工務店では、浜松本社にあるような免震装置を全国7ヵ所の工場などに設置している。定期的に、「住まいの体験会」を開催しており、各営業所からバスを連ねて見込み客を招待して、免震住宅の揺れの少なさを体験してもらっている。地震の揺れを比べて感じた見込み客の受注確率は高く、業績向上に貢献している。一条ハイブリッド免震構法の開発は、技術開発が社業の発展に寄与した好事例ともいえる。平野次長は最後に「免震住宅によって地震被害を防げる時代になりました。人々にこの構法をもっと知って貰いたいし、日本のすべての住宅が免震住宅になるよう普及していきたいですね」と意欲的である。

※協会機関誌「木芽」2008年夏号(Vol.128)より転載

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